表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円卓の魔王  作者: くろん
6/7

その愛

 アイオスは、魔王の私室で読書をしていた。

 すると、ドアがノックされる。


「入れ」

「失礼致します」


 そこに現れたのは、ケルベロスだった。

「どうした」

「はい。ご報告申し上げたいことがございまして」


「聞こう」

「はい。闘神アカミが、動き出したようです」

「……闘神? 神なのか?」


 アイオスは魔王としての記憶が欠如している。当然の疑問なのだが、やはりケルベロスは不審に思い、首を傾げた。


「……いえ、神ではありません。人間です。かつて、魔王様を討滅した勇者のパートナーです」

「勇者の……そうか。ん? 待て。人間と言ったな? この世界の人間は、それほどまでに寿命が長いのか? 五百歳を超えているが……」


「それも違います。この世界の人間の平均寿命は、50~60歳程度です。アカミは神・エナトスにより、力を得た『不死者』なのです」


「不死者……死なないというのか?」

「それもまた、違います。肉体的な寿命がないというだけで、『死』は存在します。魔力による攻撃で、肉体にダメージを与え、コアを破壊すれば、倒せるでしょう。ただ、その場合。完全なる死か、アストラル界への帰還かは、わかりかねますが」


「ふむ……その、アストラル界というのは、なんだ?」

「アストラル界というのは、精神世界のことです。肉体が消滅しても、魂は消えません。その魂は、精神世界へと帰るのです。魂が存在するのであれば、再び現世への復活も可能だということになります」


「それでは、いたちごっこだな」


「ですが、復活には、様々な条件が必要になります。魔王様の場合、深い憎しみを抱いていた、人間や天使の血や心臓、そして大魔法による復活……これらが条件となっていました。存在によって、復活の条件は異なります」


「つまり、簡単にホイホイ復活出来るというわけではないということか」

「はい」


「……わかった。それで、アカミについてもう少し詳しく話をして貰おうか」

 ケルベロスは、メイドの裾を掴んで、頭を垂れた。


「かしこまりました。引き続き、ご説明をさせて頂きます」

「アカミは、この五百年間。身を隠しておりました。私も捜索を行っておりましたが、見つからず。人目を避ける行動をしていたようです。ですが、バルディネスにいる『鼠』から報告がありました。アカミが、バルディネスに入ったと。それで、大きく事が動くと思い、報告に至ったというわけです」


「五百年も、身を隠していた者が、今更出て来る理由はなんだ」

「恐らく、魔王様の復活が原因かと」


「……それはあるな。しかし、解せん……そのアカミとやら、交渉は出来ないだろうか。戦いを避けていたのだろう? 話し合いの余地はありそうだが」


 それを聞いて、ケルベロスは驚いた。

「ここ最近の魔王様には、驚かされるばかりです。昔なら、我先に戦場に赴いておりましたが」


(随分と、好戦的な魔王だったみたいだな……私は極力無駄な争いは避けたい。そもそも、魔王軍の戦力不足は浮き彫りになっている。今は戦力の補強を最優先としなければいけない。それには、金もかかる……税の見直しはしたが……市場が再び活気を取り戻すには、十年はかかるだろう。早急に金を得る方法を考えなくては)


「魔王様。現在、魔王軍における不穏分子のリストを作成中ではありますが、それでも完璧とは言わないと思われます」


「粛清しろというのか? ふむ……魔王軍にも、スパイがいるということだな?」

「はい。スパイはどこにでも、存在します。それらを全て排除することは出来ないでしょう」

「君がそのスパイだったとしたら、お手上げだな」


「……そこまで、魔王軍は脆くはないと思います」

「すまない。失言だったようだ」


「いえ、誰であろうと疑いを持つのは、悪いことではありません」

「ケルベロス。少し、資金調達の案を考えているのだが」

「はい。なんでしょうか」


「うむ。この世界の医療は、基本、魔法が主体だな?」

「はい。治療は主に、魔法で行われます。他に薬草などはございますが……」


(その程度か……なら、これは行けるかもしれんな)


「そうか。なら、新たに医療チームを設立する。そして、製薬会社を立ち上げる」

「製薬……会社? ですか? よくわかりかねますが……」


「簡単に言えば、科学医療で民衆を治療することだ。特に、『抗生物質』は、我々の独占市場になることは、間違いない」


(私は、元医者でもある……製法自体はわかっている。キャンデロロならば、それらの機械を製造することも可能だろう。科学薬品が世界市場を独占出来るシェアとなれば、莫大な利益を生み出すことが可能なはずだ)


(しかし、どちらにせよ。ある程度の時間は必要だな……となれば、今やるべきことはただ一つ)

(時間稼ぎ、だ)


 アイオスは、戦争における必要事項を正しく理解していた。戦争には、金がかかる。食料の維持率も重要になる。数も必要となる。それらを正しく揃えられるかどうかが、勝敗を大きく分けるということを。


「アカミは、来ると思うか?」

「恐らくは。それしか、バルディネスと接触した意味がありません」

「そうか……アカミの強さはどれぐらいなのだ?」


「一騎当千……単独で数千の兵を相手出来るほどの力を持ち合わせております」

「……それでは、兵の意味がないではないか」


(いや、意味がないわけではないか。結局のところ、そういったバケモノには、バケモノで当たればいいだけの話。となれば、やはり最終的には兵の数が拠点制圧には、必要になって来る……)


「そうですね、魔王様のお考えは概ね正しいと思います。なので、戦いというのは『力ある者』同士の戦いであると言えます。兵は主に、拠点の制圧後、そこを管理する為に必要になるでしょう」


「やはり、そういう考えに至るか……まあ、しかし。毎回そういうケースになるわけではないのだろう?」


「当然です。闘神アカミは、魔王様に匹敵する『高位級』の存在です。その中でも、最上位と言えるでしょう。そういった存在がいない戦場の方が、遥かに多いです。領土を拡大すれば、それだけ戦力は分散されます。人員の確保は急務と言えるでしょうね」


(やはり、レアケースか……とはいえ、そういった存在が一人混じっているだけで、大きく計算が狂うのは厄介だ。兵の配置は非常にナイーブになって来る。間違えれば、即座に数千の兵が犠牲となってしまうのだから)


「私がアカミを迎え撃とう」

「本気ですか、魔王様」


「それしかあるまい。話もしてみたいしな」

「……そうですか。いえ、少しだけ。魔王様らしさが戻ったようで、安心しました」


 嬉しそうな表情を見せる、ケルベロス。その顔をアイオスは眺めていた。

(そうしていると、無邪気そうな若者に見えるな……実際は、人の皮をかぶった悪魔なのだが)


「しかし、魔王様お一人では、危険です。私が……」

「いや、ケルベロスは内部の反乱がないか、監視してくれ。お前が献上した千の兵を使わせて貰う。護衛はそれで十分だろう」


「……わかりました」

「ま、相手の数もわからん内に、どうもこうもないのだがな……いくつか、プランは用意しておく。それでいいな」


「はい」

 そうして、ケルベロスとアイオスの会話は終了した。

 ケルベロスが、帰ろうとした時だった。アイオスが席から立ち上がったのは。


「魔王様?」

「ケルベロス……」


 アイオスは、ケルベロスに口づけをした。


「んっ……んんっ……はっ……」

 そして、そっと離れる。


「ま、魔王様……行けません。私など……」

「どうしてだ? お前は、魅力的だ。その頭脳……行動力、思いやり。そして、その見た目……全て、私のモノにしたい」


「ですが……ティーファ様が……」

「ティーファがどうしたというのだ」


「ティーファ様は、魔王様を敬愛しております。それ故に、自身以外の女性が魔王様と接触することを快く思っておりません。魔王軍に、亀裂が入りかねません……」


「そんなことか……よい。どうにかする。最悪、そうなってしまったとしても、私はお前を選ぶ。ケルベロス」


「魔王、様……」

「アイオスでいい」


 そのアイオスの目に、ケルベロスは……堕ちていった。

 深いキスを交わす。長い、長い時間だった。

 そして、ゆっくりと唇が離れていく。


「ぷはっ……ま、アイオス様……」

「私のベッドに行こうか」

「はい……」


 そうして、アイオスとケルベロスは、朝まで行動を共にしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ ↓ 評価をお願いします ↓ ◆
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ