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円卓の魔王  作者: くろん
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バルディネス神国

 一方、バルディネス神国でも、会議が行われていた。


「ついに、魔王が復活してしまったか」

「この事は『預言書』にも、記されていたこと。案ずることはない」


「だが、我軍が壊滅的打撃を受けることまでは記載されていなかったぞ! どういうことだ!」

「恐らく……預言書にずれ、もしくは歪のようなものが発生しているのでしょう。原因はわかりませんが」


 そう答えるのは、シルード・オチュアーノ伯。若くして、幹部の仲間入りをした実力者だ。


「ううむ……」

「して、近隣諸国の停戦協定はどうなっているのだ」

「グリムダルドは、協定に応じました。他の国、エスリード、マーラ、ゲドマンは停戦協定を破棄。引き続き、戦争状態にあります」


「魔王が復活したというのに、何を考えているのだ!」

「その魔王自体に、脅威を感じていないのでしょう。事実、魔王軍の戦力は全盛期の25分の1以下というではありませんか」


「それは、今現在の話であろう! 散り散りになった、魔族たちが一斉に集結したらどうするのだ! 全盛期に近い戦力を取り戻す可能性だってある!」


 激高するのは、戦将・ダービッド・ロイマン侯。


「それはないと思いますね」

「なぜ、言い切れる!」


「一度、自分の意志で離れた者が、おめおめと元の鞘に帰るとは、考えにくいということですよ。誰もが、この状況をチャンスと考えていることでしょう。戦争は加速します。それも、我々の思惑通りに」

「……」


「今回の件、私に一任して貰えないでしょうか」

「何か、策でもあるというのかね?」

「闘神アカミを使います」


 その一言に、会議室はざわつきを見せた。

「彼女が……見つかったというのかね?」

「はい。すでにコンタクトを取っております。私にお任せ下さい」


 その言葉を受けて、バルディネス王は頷いた。

「いいだろう。やってみせよ。知将と名高いそなたの手腕、とくと見せて貰うぞ」

「お任せ下さい」


 そういって、会議は終了した。



 とある、一室。

 かつかつかつ、と。足音が聞こえてくる。

 やがて、それは止まり。ドアが開かれる音が聞こえて来た。


 現れたのは、老婆だった。しわくちゃの顔に、白い髪。乱雑に結った髪。年齢に似合わぬ赤いリボンが特徴的だった。


 そして、さらに似合わないのが、背にある大剣だった。紫の剣は、光を帯びて、獲物を待っているかのように、時々、かすかに音を発していた。


「来ましたか」

 それを迎え入れたのは、シルード・オチュアーノ伯。彼は、椅子に座るよう促したが、老婆はそれを無視した。


「なんだい、こんな老いぼれに。今更、何の用があるっていうんだい」

「老いぼれ、ですか。貴方には『年齢』は関係ないでしょう。神・エナトスから力を得た貴方は、『不死者』なのですから」


 その言葉に、老婆……アカミは眉をひそめた。

「……バカ言ってんじゃないよ。ただ、ちょっと人より長生きなだけさ。『死』は誰にでも訪れる。神だって、悪魔だって、天使だって、例外ではないさ」


「そんなことは、どうでもいいのです。貴方に、やって貰いたいことがあります」

「断る、と言ったら? どうするんだい?」

「魔王が復活しました」


 目を見開くアカミ。心底、驚いたという表情だった。しかし、冷静さをすぐに取り戻す。この辺り、歴戦の強者の心得というものが備わっているのだろう。


「そうかい……そうかい。アイオスが……ねぇ。そんな予感はしてたよ。けど、今更あたしをコキ使おうなんて。知将、オチュアーノもヤキが回ったんじゃないかねぇ?」


「貴方の実力は未だに衰えていません。事実、見つかるのを恐れて隠れ偲んでいたではありませんか。この五百年間。随分と、探すのに苦労しましたよ」

「……」


「まあ、五百年前から捜索が行われていたというだけであって、私が捜索に関わったのは、ほんの五年程度ですが」


 まるで、自分はたった五年で見つけたと言わんばかりに。

「あたしゃ、もう疲れたんだよ。懲り懲りさ。戦いは終わらない。魔王を倒したところで、この世界はどうなった? 変わりゃしない。矛先が変わっただけ……どこもかしも、戦争、戦争、戦争さね。バカバカしいよ、ほんと……あたしらは、何のために戦ってきたんだろうねぇ」


 アカミは、昔を懐かしむように。天井を見上げた。


「貴方のご子孫……不治の病だそうですね」

「……」


 アカミの表情が変わった。

 オチュアーノは、笑みを浮かべる。自分の得意分野だ。巧みな話術で、相手を引き込ませるテクニックを彼は身につけていた。


「私に協力して頂ければ、『エリクシール』をお譲りしましょう」


 エリクシール。どんな病も治すと言われている、万能薬だ。しかし、その製造法は困難であり、賢者の石に匹敵すると言われている。製造出来るのも、一握りの賢者達だけである。


 その為、非常に高価であり、小国の国家予算に匹敵する額と言われている。

 王族等の高い地位でもない限り、とても払える額ではない。

 仮に、貴族であったとしてもおいそれと出せる金額ではないことはたしかだ。


「その話、本当かい?」

「嘘は申しませんとも」

「もし、嘘だったら……その首、切り落とさせて貰うよ」


「貴方相手に、そのようなことは致しませんよ。たった一人で、一個師団を壊滅させるだけの力がある、闘神アカミ相手に」

 他だったら、しているということだ。


「年寄りをあんま、からかうもんじゃないよ。全盛期でも、それほどの力はなかったさね」

「それで、交渉成立ということで、よろしいでしょうか」


 アカミは、大剣を地面に突き刺す。剣は音を響かせた。


「ふん……アイオスの首を手見上げにすれば、いいのかい?」

「左様で……」


 その言葉を聞くと、アカミは闇の中へと、消えていった。

 ゆっくりと、オチュアーノは立ち上がる。そして、カーテンを開いた。


「ふふ……計画通りに事は運ぶ……戦争は終わらない。終わらせない……くくっ」


 カーテンの光が差し込み、そこに影が映る。その影から、声が聞こえて来た。


『キキキ……ウマクイッタヨウダナ』

「ええ。万事滞りなく。全てが、私たちの手の中にあります」

『ソウカ……ナラバ、エモン様にご報告シナケレバ』


 そういって、影は消えた。


(ふふ……アイオスの下に再び、六大貴族が揃うことはない。私たちが、世界をコントロールするのです。これからも……ね)


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