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円卓の魔王  作者: くろん
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魔王復活

 神代冬夜は、死の淵に立たされていた。末期がんだった。薄れ行く意識の中、家族がベッドの傍で涙ぐんで、見守っていた。


「お父さん!」

「パパッ!」


 神代冬夜は、一代で会社を大企業にまで築き上げた実力者だった。その類まれな才能で、財を成し、これからという矢先の出来事だった。


 55歳だった。神代の体に異変が起きたのは。病院で検査をすると、末期のがんと申告された。絶望的だった。


 ありとあらゆる手を尽くしたが、限界だった。

 神代冬夜は、家族の手を取り、力のない眼で最後の言葉を伝えようとしていた。


「……後の、ことは……頼んだ、ぞ……母さんを、守って……やって、くれ……」

「うんっ……うんっ!」


 神代冬夜の息子は、頷いていた。必死に。

 そして、安心したかのように。神代冬夜は、息を引き取った。


「父さん! うあぁああああああっ!」

 息子達の声が、響き渡った。



 暗い。暗い。暗い部屋。おぞましい雄叫びがこだまする。腐敗した、城跡。

 棺の中に、それはあった。ボロボロに朽ちた『何か』が。


「ゲルディオン、まだか。早くしろ」

「慌てるな。この日の為に全てを費やして来たのだ。手順を間違えれば、全てが水の泡だぞ」


「……」


 ティーファは、黙った。苛立ちを覚えながら。

 ゲルディオンは、何かを懐から、取り出した。


「人間千人分の血を凝縮した供物と、天使の心臓……そして、我が大魔法……『輪廻転生』。これより、魔王様の復活を果たす……!」


『レク・リン・ショウシャ・レギゼ・ラム・ルンド・バーシャ・エイゼラ……深淵より、眠りし、魂よ……我が眼前へと、還り、その体に再び、生命の息吹を与えたまえ!』


『リーインカーネーション!』


 光が、棺の中にある朽ちた体を包み込んだ。


「おぉ……!」

 ティーファの目が見開いた。そして、歓喜の表情へと変わる。笑みだ。笑み、笑み、笑み! 笑みしかない。


 両手を掲げるゲルディオン。

「復活なされるぞぉおおおおおおおおおおお! 我が、敬愛する魔王様がっ!」


「復活っ! 復活っ! 復活っ! 復活ぅうううううううううううううううう!」


 叫ぶ、ティーファ。その巨大な胸が、激しく揺れるほどに、叫び、踊り狂う。


「愛しの魔王様が、ご復活なされるぅうううううう!」


 白き輝きが消え、辺りは静寂に包まれる。

 ごくっと、息を呑む二人。

 ゆっくりと……棺の中から、それは現れた。


「……」


「「おぉ……」」


 思わず、声が出る二人。

 魔王と呼ばれた存在は、辺りを見渡した。


(なんだ、ここは?)

(私は……どうしたのだ? 死んだ、のでは……なかったのか? 夢か? 幻か?)


 困惑するのも、無理はない。神代冬夜は、魔王に転生してしまったのだから。

 そして、それを、魔王軍の二人も知らない。魔王の様子に違和感を感じたのか、問いかけるティーファ。


「魔王様! ご復活、おめでとうございます! わたくし、この日をどんなに待ちわびたことか! おぉ、魔王様! なんて、美しいお姿……! さあ、ご命令下さい! わたくし共が、その全てを叶えましょう! 御為にィイイイイイ!」


「……」

 しかし、魔王は黙ったままだった。訝しげにゲルディオンを睨みつけるティーファ。


「どういうこと、ゲルディオン。魔王様の様子がおかしいわ」

「うぅむ……肉体の再生は問題ないはず……すると、やはり魂が……」


「ゲルディオン!」

「落ち着け、ティーファ。気性の荒いお主が、いきり立って、余計に魔王様を困惑させることになるぞ!」


「はっ!」

 我に返ったティーファは、魔王の方向を向いて、押し黙った。


「魔王様……私めのことは、おわかりになられますかな?」

「……いや」


「むう……これは……よもや、記憶が」

「記憶? そんなバカな。ならば、何も覚えてないというの!?」


 ティーファは激高する。両手を上げて。抗議するかのように。

「肉体の損傷率は98%を超えておったのじゃ……記憶が蘇らなくても、不思議ではないわい」

「バカなことを! アカシック・レコードに刻まれた記憶が、消えるわけがっ!」


「アストラル界に干渉しすぎたのかもしれぬ。魂の帰還は果たせたが、その生命の根源たる記憶までは、引きずりだせなかったのじゃろう」

「この、役立たずがっ!」


「ワシを攻める気か? 古株で、ワシ以外にこの大秘術が使える者など、もうおらんというのに」

「だからこそよ! なぜ、完全なるお姿で、復活出来なかったというの!」


 神代冬夜は、怯えていた。現実を受け入れられないのだろう。何が起こったのかも、理解出来ていない。


(なんだ、こいつらは……何を言っている? それに、なんだあの姿は……一人はコスプレみたいな姿をしているが……もう一人は、完全に『バケモノ』のそれだ。ここは、なんだ? 地獄か? ……!?)


 神代冬夜は、驚いていた。それは、彼らの姿だけでなく、自分の姿にも。


(この手は……一体。真っ黒だ……漆黒の手……体。私は……一体、どうなってしまったのだ?)


「魔王様……ご自身の名前はおわかりですかな」

「いや……ここは、どこなんだ?」


「……」

 ゲルディオンと、ティーファは、互いに視線を合わせる。


「ここは、元魔王城の城跡で御座います。貴方様は、その王たる、魔王なのです」

「魔王……?」


(この私が……魔王?)


「貴方様のお名前は、アイオス・ルシフ・シャディウス。私めは、ゲルディオン。ゲルデとお呼び下さいませ。こちらは、ティーファ。どちらも魔王様の忠実な手下で御座います」


(魔王……神話に出てくるルシファーのことか? 名前もどことなく、似ている……)


 その時だった。慌ただしく走る音が聞こえて来たのは。


「ご報告申し上げます!」

「何事だ」


「はっ! バルディネス軍がすぐ傍まで、接近しております! 数は約、五千! 完全に包囲されています!」


「ちっ、奴ら……魔王様の復活に気づいたというの? 綿密に計画を立てていたというのに!」

「魔王軍の幹部が二人も動けば、当然じゃろう。時間稼ぎは出来た方じゃて。すぐにこの場を離れた方がよさそうじゃな。魔王様……記憶が混乱されておるかもしれませんが、ここはわたくしらに、ご同行下さいませ」


「……敵、なのか?」

「左様でございます。敵の数は五千。我らは、五百足らずと行った所でしょうか。敵の中には、『勇者』もおるかもしれませぬ……多勢に無勢。ここは、撤退を……」


「……」

 神代冬夜……アイオスは、歩きだした。外が見えるバルコニーへと。


「ま、魔王様!?」

 これには、ティーファも驚きを隠せなかった。


(よくわからないが……私は恐らく、死んだ。それは、たしかだろう。この景色を見ればわかる……明らかに、日本ではない。この姿もそうだ。で、あるならば。この魔王と呼ばれる自分が成すべきことを考えなくてはならない。それは、何か? 魔王は、恐怖の象徴。すなわち、絶対的な『悪』だ。つまり、私がすることは──)


「人々に、恐怖を植え付けること……!」

「魔王様……」


 アイオスの眼前には、数千の兵の姿があった。バルディネス軍だ。青い稲妻の紋章が入った旗を掲げている。圧倒的な迫力だった。


 隊の中には、光を放つ者もおり、恐らく、魔道士ということがわかる。

 こちらに狙いを定めているのだ。視覚強化の魔法で、魔王の居場所を把握したのだろう。


(わかる。わかるぞ。私には、力がある。全てを破壊する、力が。ならば、振るおうではないか。この力を。これが、私の第二の人生だというのであれば、私は……この世の、王となる!)


『深淵の闇よ……我の下に集い……纏え、永久より来たれ。漆黒の風よ。我が行く手を阻む、全ての者に対し、制裁を与えよっ!』


『アビス・ゲート!』


 闇が、闇が。闇が全てを、飲み込んだ。

 バルディネス軍の上空から、出現した闇は、瞬く間にその殆どを飲み込んでいった。


「う、うわぁああああああああああああっ!」


 次々に闇に飲み込まれて行く、兵士たち。為す術もなく。逃げることすら、許されない。絶対的な『死』。そのものだった。

 わずかに、生き延びた数百の兵士たちは、すぐさま撤退した。ほんの、数十秒の出来事だった。


 その光景を目の当たりにした、ティーファは。笑った。


「ふ、ふ、ふっ……フハハハハハハハハッ! アーーーーハッッハッッハッハっ!」


「これよ、これっ! これぞ、魔王! 魔王様! アァ! 魔王様ァ~ん! 残虐、非道! 全てを食らいつくす、混沌の王! ふふふ……ハハハハッ! 何を、戸惑うことがあったのか! ナイッ! そんなものは、杞憂っ! 愛しの魔王様は、ご顕在! ご顕在なるぞっ! アーッハッッハッッハッ!」


「おぉ……まさか、これほどとは。目覚めて間もないというのに……すでに、全盛期……いや、それ以上の……お力を。転生したことにより、力を得たのいうのか……素晴らしい! なんて、素晴らしいのだ!」


「……」

(人が……消えていく。だが、なぜだ。この高揚感は。楽しんでいるのか、私は。人殺しを。そういう、体なのだろう。今はいい。この感覚を……感じているだけで)



「ゲルデ」

「はっ……」


「私には、わからないことが多い。色々と説明して貰うぞ」

「かしこまりました。では、我が主の城……『魔王城』へご案内致します」


「アイオス様。数々のご無礼、お許し下さいませ。このティーファ。魔王様の御為に、全てを尽くす所存で御座います」


「頼むぞ」

「あぁ……ん、魔王様ァ……」


 そして、夜が明けた。神代冬夜の第二の人生が始まったのであった。


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