第8話 死合う覚悟(2)
「ガンちゃん、カスタードできた?」
「あと30秒です。」
「じゃ、ビスケットをジ〇プロックに入れて、砕いて。」
「ハーイ。」
只今、美緒先輩と『ベリーベリーパイ』の製作中。
今日の『家庭科研究会』は、『パイの日』。
他の班でも、アップルパイ、チェリーパイ、色々とパイを作っている。
大体1時間後。
全員焼きたてのパイが完成する。
「じゃ、切り分けて批評会ね。」桜先輩が言った。
「ハーイ。」
オレは紅茶の準備をして、みんなに配る。
『いただきまーす。』
オレの分は、小さく切ったパイ7つ。
ウフフフフ♡
食べようとすると、
「ガンジー!」
バシッ☆と家庭科教室の戸を開けて、香が入ってきた。
軽くお辞儀しながら、
「桜先輩、美緒先輩、コンニチハー♪」
オレの皿を見て、
「お! ラッキー♪」
3つ同時に取り上げて、パクパク食べやがった。
「あーーーーーっ!!」
あの3つ、最後に食べようと思ってたのにぃ!
「どう? カオリさん、おいしい?」桜先輩が尋ねる。
香はムグムグしながら、サムズアップだ。
先輩は満足げにコクコクしている。
「あ、そうだ。 ガンジ、用事。 これ終わったら一緒に帰るよ。」
涙目のオレを無視して、香は言った。
放課後の下校時。
「例の3年生、解った。」
香が言う。
「吉田真夜子、3-c。文学同好会所属。行動普通。
クラスでも、目立って何かやってはいない。」
「まぁ、目立たないってのは、大切だからな。」
「大切なの?」
「何かあった時、まず最初にタゲされると困るだろ?」
「あー。」
すでに夕闇が迫っており、あたりは薄暗くなってきている。
「屋上の例の件、見に行ったけど、跡形無し。血の跡すら無い。どうなってるんだか。」
「生徒で行方不明者はいないか?」
「あ。えーと、自宅警備員がいるからハッキリしないけど、それっぽい該当者が、
2~3名いる。」
「・・多いな。」
「え? そう?」
『贄』で使ってるかもしれない。
なんとなくだが、そんな感じがする。
「で、どうするの?」香が尋ねる。
「どうするって?」
「この後の行動。彼女に直接聞くとかさ。」
オレは、ジーッと香を見る。
「? なに?」
「オマエ、殺されかけたよな。」
「ウン。」
「余り探り過ぎると、今度こそ本気で殺しに来るぞ。」
「この前はケガしてたから動けなかったんだけど、今度は負けないさぁ!」
巌示は頭を振った。
ダメだ。分かってない。
相手はプロだ。
アマの格闘マニアが戦って、勝てる相手じゃない。
さて、どうやって説明しようかと思案しながら歩いていて、
通りの角をスィと曲がった途端、空気の色が変わった。
「香。来るぞ。」
「え?」
前を見ると、2名いた。
顔には仮面をかぶっていて、表情は見えない。
一人は笑い顔の仮面に槍、一人は泣き顔の仮面に刀だ。
本気だな。
オレは確信する。
「香。オマエ槍。殺す気でいけ。」
「・・わかった。」
双方、ほぼ同時に仕掛ける。
槍が香に伸びて行く。
香は頬の横スレスレを槍が通過するのも構わずに、インサイドに踏み込む。
笑い仮面は槍を引くが、すでに香は中に踏み込んで、みぞおちを一撃で突く!
何か硬いものに当たった。
防具を着けているのか!?
「ガンジ、コイツら、防具着けてる!」
巌示は、捕獲したクナイを構えていた。
根本から少し戻った辺りに輪が付いていて、指を入れて構えることができる。
泣き仮面は、刀でヒュッ、ヒュッと、無駄なタメの無い動きで、巌示を攻撃していた。
一瞬動きが止まり、切っ先がヒュッヒュッヒュッと3回突っ込んでくる。
『3段突き』
3回目の突きで、相手の腕が伸びきった時、巌示は脇の下をクナイで鋭く突いた。
「グッ!」
泣き仮面は、刀を落とす。
巌示は刀を拾うと、『ヒュッ☆』と刀を横に払う。
スパン☆と、泣き仮面の首が飛んだ。
「巌示!」
びっくりした香が叫ぶ。
一瞬、香の動きが止まった。
その隙に、笑い仮面の槍が、香を襲う!
串刺しになる寸前、巌示の刀が槍を跳ね飛ばす。
『フンッ!』
巌示は片手で刀を打ち下ろし、袈裟斬りに、笑い仮面を切る。
『ゴンッ☆』という音がして、笑い仮面は倒れた。
真っ青い顔をして、香は立っている。
やっぱり傀儡か。
巌示は道路に刀を叩きつけて、折ってしまう。
それにしてもすごいのは、巌示の筋力である。
剣道は知らない。
力任せに刀を振っただけである。
ダテにベンチプレスで120kg上げてる訳じゃなかった。
青い顔をして立っている香に、
「まだ油断するな。終わってないぞ。」
ハッ!として、香は、槍を拾って構え直す。
薄暗い中から、異様なモノが浮かび上がる。
「悔しや!悔しや!!」
出てきたのは、上半身が女で4本の腕を持ち、それぞれに刀を握っていて、
下半身が蛇の化け物である。
女の顔は真夜子であった。
「悔しや巌示! ワレはお主の肝を喰らってやる!」
巌示は香に札を1枚渡し、
「これを身に着けろ。」
自分は、数珠を2つ取り出し、それぞれ手に巻いて握った。
「南無菩薩大権現!」
数珠が『キィン!』と光り始める。
「カオリ、いくぞ!!」
「おうっ!」
カオリの槍の先端も光りだす。
「オン・キリシュチリビキリ・タダノウウン・・・」
『大威徳明王真言』
焔により、一切の悪を調伏する仏の真言を、唱える。
「グ・グググググ・・・」
真夜子が苦し始める。
見ると左肩から煙が上がっている。
「まだ『返し矢』の傷が、治っておらんな。」
巌示がニヤッと笑う。
「ほざけ!!」
4本の刀を使っての攻撃が始まる。
最初の攻撃の時、巌示の数珠が弾けて宙に舞った。
数珠はそのまま宙に留まったまま、真夜子からの攻撃を防いでいる。
『フンッ。』
巌示はインサイドに入り込んで、真夜子にバン☆バン☆と打撃を与える。
香は隙を見計らって、槍を突き出す。
『ズブッ☆』という感触がした。
手応えあり。
「キイエェェェーーーーツッッ!! おのれぇぇーーーっ!!」
真夜子はカチカチ歯を鳴らし、悔しの叫びを上げる。
背中の傷は、すでに大きく口を開き、溶けた鉄のようにドロドロと流れ始めていた。
「悔しや悔し。我が命、削ってでもこの恨み、晴らさでおくべきか!」
真夜子は、更に変質する。
顔が般若となり、体は鱗が出て、トカゲのようだ。
「人間を捨てたか。」
引導を渡すべく準備を始めた巌示に、
『待て』
鬼が現れる。
「少々、『腕試し』だ。」
鬼は降り立ち、『フンッ!』と腕を払う。
『ガコン!!』という音がして、般若の顔が半分、千切れ飛んだ。
真夜子は、『ギロッ』と半分削れた顔のまま鬼を睨み、戦いを挑む。
鬼は真夜子の体を掴んで、頭からボリボリと喰い始める。
上半身がほぼ喰われた頃、あたりの空気が、もとに戻った。
「ギィエェェーーーッ! グオーーーーーツッ!」
地面に倒れた人間の真夜子が、唸り声を上げながら、ジタジタと暴れまわっていた。
鬼は何かの金具をプッと吐き出し、
「やはり、傀儡はマズいな。」
香が真夜子の顔を見ると、般若の顔のまま暴れている。
「ガンジ!?」
物問いたそうな顔で、香がオレを向く。
「この顔は『般若』。怒りで凝り固まった人間が、この顔になる。
この顔になったら、もう治らん。怒りの中、狂い死にするだけだ。」
「そんな・・・」
青い顔のまま、黙り込む。
「だから安易に呪詛に頼ったり、人を恨んではいかんのだ。
コイツは用法を誤った。『返し』がくるのは当然だ。」
巌示は帰り支度をすると、スタスタと帰り始める。
「ガンジ!・・」
巌示は少し後ろを振り帰って、
「なあ、カオリ。 お前、オレに『本気出せ』って言ったよな。
俺たちの言う『本気』って、こういうことだ。
こうなるまで戦いたいのか?」
残された香は、ただ青い顔のまま、うつむくだけだった。




