第7話 死合う覚悟(1)
「次、5人組手!」
香の前に5人の人間が現れる。
『始め!』
香は舞う。
右へ左へ、上に飛び上がり、信じられない角度からの蹴りがさく裂する。
最初の3分で3人が沈む。
中学まで、香は体操部に属していた。
跳馬・平均台・床運動。
優れたバランス感覚と動体視力が養われた。
残り2人。
相手もフルコンタクト用の防具を着けているので、
香は、心おぎなく蹴りを、突きを繰り出す。
中段の回し蹴りから下段の足払いに続けて、
下からすくい上げるような踵蹴りをカマす。
ラスト1人。
相手の突きを受けて絡めて、腕ひしぎ逆十字。
『それまで!』
「プフゥーウ!」
ヘッドギアを外して一息ついた。
『おっかねー!!』
巌示は心の中で冷や汗をかく。
「おい、巌示。次、お前。 香とやれ。」
師匠がオレを指名した。
「えーーーーーっ!!!」
顔一杯に、ガッカリ感を出す。
香は毒蛇だ。
ムチのようにしなやかな躰から、するどい攻撃が降って来る。
基本は少林寺拳法かもしれないが、既にその領域は越えている。
ムエタイ・サンボ・テコンドーだ。
何が襲ってくるか分からないところが、香の強みであった。
ヘッドギアと小手を付け、香と相対する。
「はじめ!」
始まると同時に香が飛び出す。
鋭い前蹴りが来る!
『フンッ!』
腹筋を固めて、攻撃を受ける。
香の脚をそのまま持ち上げて、すっ飛ばす。
後ろ向きのまま、踵がアゴに突きあがってくる。
『フンッ!』
横に払いざま、前に進んで突きを出す!
巌示は自分を分かっていた。
自分の持ち味は『剛』である。
筋肉と骨格を鎧にして、重戦車の如く、香を蹂躙する。
巌示は『身体甲殻法』を修得しており、香の打撃を跳ね返してしまう。
師匠ゆずりの直截的な拳法運用により、攻撃にも無駄がなかった。
「オン・キリシュチリビキリ・タダノウウン・・・」
『大威徳明王真言』
焔により、一切の悪を調伏する仏の真言を、知らないうちに唱えている。
「やめっ!」
お互い礼をして、離れる。
いつもながら、香との決着はつかない。
「ガンジぃ、オマエ、ズルいぞ。」
いつものことだが、練習後、香が文句を言ってきた。
「そんなこと言っても、オレ、オマエみたいにできんもん。」
後ろ回し蹴りをやろうとしたら、単なる後ろ蹴りになってしまった。
う゛、悲しいw
見ていた香は、「何やってんだろ?」みたいな感じである。
「オマエ、ワタシとやる時、本気出してないだろ?」
「出してるってw」
「ウソ!」
先日、香は巌示が本気出したの見た。
無駄な動作の無い、破壊的な攻撃だった。
返す自分は、腕を吊っていたとはいえ、相手の本気の攻撃に、成す術がなかった。
『巌示が助けてくれなかったら、死んでいた。』
それが心に、『しこり』となって残っている。
巌示は困っていた。
香の言いたいことは、何となくは分かる。
香は『死合い』を望んでいるのだろう。
でも違う。
『死合い』は、相手の息の根を止めた方が勝ちなのだ。
技術の問題では無い。
『覚悟』の問題なのだ。
とっとと着替えて玄関に行き、
「ありがとうございました!」
さっさと帰宅する。
寺への帰り道。
夜の竹林の中の道を通る。
両側には、竹で編んだ生垣が続く。
ポツンポツンと灯る街灯の中を、巌示は歩く。
「来るぞ。」
肩から声が聞こえる。
『鬼』の声だ。
背後から針のようなクナイが4つ、続けて打ち込まれる。
道着の入ったバッグで打ち払い、右横の生垣に、拳で打撃を加える。
『グッ!』という声が聞こえて、何かがすっ飛んで行った。
バッグに刺さっていたクナイを2本、抜いて構える。
敵は2体。
相手から来なければ、攻撃する気は無かった。
深追いは、自滅の元だ。
相手の気配は消えている。
様子見だったか。
呪術が始まった古代の時代より、呪術師には敵が多い。
巌示の母の家系は、土御門が始まった頃より、ずっと陰陽師として続いていたから、
もう敵視されるのにも、慣れていてしまっていた。
母はそれを嫌って父の嫁になったが、図らずも巌示が再び巻き込まれてしまっている。
「アイツら、来なかったな。」
鬼が言った。
「様子見なんだろ。」
巌示は相手のクナイを懐にしまう。
バランスの良い、中々の一品だ。
もらっちまえ。
巌示が去ってから5分後の竹林。
「追ってこなかったな。」1つの影が言う。
「見た目に反して、慎重な性格だな。」もう1つの影が言った。
一人の女が現れる。
巌示が『返し矢』を送った相手である。
「アイツ、追ってきたら、なぶり殺しにしてやろうと思っていたのに。」
顔が怒りで醜くゆがんでいた。
肩の傷は、まだ癒えていない。
巌示が呪法を込めていたため、治りが遅いのだ。
じくじくと痛む傷を気にしながら、女は言った。
「今に見ていろ。」
口から怨念が、青い炎を上げた。
少し書き溜めまして、
週1~2作の投稿でいこうと思います。
よろしくおねがいします。




