第5話 ねえ、あそぼ?(3)
「母様。少し、お話しがあります。」
夕食後、オレは母に言った。
母はオレの方を向いて、
「何でしょうか?」
オレは、テイッシュに包まれた、例の貝殻を見せる。
母の眉が、『ピクッ☆』と動く。
「今朝事件のあった、旧校舎の渡り廊下の脇に、埋めてありました。」
「・・・」
「これは『封じの呪法』ではありませんか?」
母はその質問には答えず、
「他にもあったはずですが、如何いたしました?」
オレは、
「解法して、壊しました。」
「よし。」
母は頷いた。
「・・実は、被害にあった女子生徒は千歳さんと言いますが、香の友人らしく、
今日、お見舞いに行きました・・・」
オレは状況を話す。
眠りながら歌っていた歌も、ヘタながらも歌った。
しばらく下を向いて考えていた母が、
「巌示さん、中々やっかいな事件に巻き込まれましたね。」
「フフッ♪」オレは笑った。
「何か?」母が尋ねる。
「陰陽師にとっては、ややこしい事件ほど、心躍るものは、ありません。」
「それで死ぬかもしれなくても?」
「『握り』は大きいほど、やる気は出るものです。」
オレは平然と答える。
ハーッと母はため息をついて、
「初代晴明様より、その『ややこしや』な性格は、変わりませんねぇ。」
ニヤッとオレは笑って、
「母様。つきましては、対策をお教え願いたく・・・」
しばらく母と、相談した。
翌日。放課後、
桜先輩の協力のもと、『家庭科研究会』でアップルパイを焼き上げたオレは、
それを手土産に、香と一緒に、千歳さんに会いに行く。
『面会謝絶』。
まだ病室の扉に貼ってあった。
ナースステーションに戻って、看護婦さんに面会を希望する。
「あの患者さんは、ちょっとね。」
断られたんだが、手土産のアップルパイを見せて、
「これ、みなさんでお食べください。」
同時に、
『我が意思は、汝が意思。我に従うべし』。
フッと息を吹きかけ、看護婦さんに呪文をかける。
ハッとした看護婦さんは、
「あ、ああ。面会は了解。でも、ナイショよ。」
そう言って、OKを出してくれる。
病室に入ると、千歳さんは寝ている。
「さて、と。」
オレはカバンの中から、折った紙をとり出す。
広げると、1m四方ある、大きさの紙である。
既に呪文が書いてあり、それをベッドの下に敷く。
家から持ってきた呪具と依り代を取り出し、所定の位置に並べる。
さて、知恵比べの開始だ。
オレは静かに呪法を唱え始める。
「ナムビナヤカ・シャアシッチ・モクキャシャチニャタ・・・」
『大聖歓喜天呪法』
当たると怖い、フグの毒みたいな呪法であるが、カウンターアタックには強力である。
唱え始めてしばらくすると、生臭い匂いが立ち込めてくる。
「く、臭いw」
香が鼻をつまむ。
「そろそろ本体が、お出ましするぞ。」
千歳さんの身体が寝た状態のまま、1mくらい浮かび上がる。
「グ・ググググ・グハッ!」
空中で手足をバタバタさせながら、顔と身体がどんどん変形して、『鬼』になる。
オレは白檀で作られた数珠を取り出し、
『天元業躰神変神通力。』
九字を切り、呪法の通りを良くする。
千歳さんは『鬼』に変形し、ベッドの上に胡坐をかいて座り込む。
「寝ている我を起こして、事を為そうとすれば、今度は封じ込めか。」
オレは合掌して呪法を完成し、鬼に問う。
「私は貴方に質問があります。」
「フム?」
「貴方は『門』ですか?」
キョトンとした鬼は、頭を叩いてハッハッハッと笑う。
「お主、直截じゃのう。知ってどうする?」
「横取りいたしまする。」
サラッとした顔で、オレは言う。
ハッ!と目を向いた鬼は、
「この強欲者が!」
「もう1つ質問があります。」
「何じゃ?」
「私の下に就きませんか。」
「既に他の者の呪法が付いておる。無理じゃわ。」
「外しまする。」
『この若造が!』
突然の声。
見れば、病室の片隅に、見慣れない男が立っている。
ハッとした香が、攻撃の構えをする。
「香、構うな。あれは『影』だ。」
男は怒りの余り、醜く顔を変形させて、
「やれるものなら、やってみろ!」
オレは合掌して、
『承りました』。
オレは高らかに呪法を唱える。
「ノウモボタヤ・ノウモタラマヤ・ノウモソウキヤ・・・」
『孔雀明王呪経』
一切の害毒を平らげて、浄化する陀羅尼である。
呪法の『重ね掛け』は、知らない者が行うと『返し』が酷い。
ヘタをすると、発狂して死んでしまう。
成功の鍵は、クモの糸の上に乗る様な、呪法のバランスをとることである。
「『握り』はデカいほどやる気が出る。」
オレは図々しくも平然と、呪法を唱える。
『パキーン☆』
相手の呪法が解けたようだ。
「クソッ! 憶えていろ!!」
捨てゼリフを残し、男の『影』が消える。
「終わったの?」
香が聞いてくる。
「いや、まだだ。今度はオレが『鬼』に、オレの呪法を掛ける。」
「ちょっと待て。」
鬼が突然言った。
「?」
「お主と力比べをしたい。」
オレは構わず、呪法を唱える。
「小賢しいわ!」
鬼は叫ぶと、逆に呪法を唱え始めた。
「お主の弱点は知っておる。これじゃ!」
そう言うと、鬼は千歳さんに戻る。
・・・素っ裸の女子高生だ。
鬼は千歳さんの身体を抜け出して、上空に佇む。
「もう1つ!」
鬼が呪文を唱えると、香の洋服がちぎれ飛ぶ!
「キャーッ!!」
びっくりした香が、大事な箇所を隠す。
2人の全裸の女子高生。
「き・汚いぞー!!」
おれは脂汗を流しはじめる。
いきなりピンチに陥った。




