第3話 ねえ、あそぼ?(1)
「返すのが遅くなっちゃったな。」
千歳は廊下を早歩きで図書室に向かう。
夕暮れ時、校舎の中は人影もまばらで、少し寂しい。
渡り廊下をくぐってショートカットで図書室へ行こうと思い、
旧校舎に入った途端、空気の色が変わった。
急にモノトーンになって、薄暗くなる。
「あれ?どうしたんだろ?」
千歳は心細くなり、元の校舎へ戻ろうとする。
「え!? ここ、どこ?」
彼女がいるのは、古めかしい木造の、長い廊下の続く建物であった。
外を見ると、既に夜である。
雷が鳴り、雨が降っている。
え?さっきまで夕方だったのに!?
突然の状況に、彼女の頭がパニックを起こしかける。
時々光る雷光で、長い廊下が続いているのが解る。
片方が教室らしく、それが幾つも続いている。
彼女はポケットからキーホルダーを出し、
そこに付いている、小さいLEDライトを点灯する。
心細い灯りだけど、無いよりマシである。
どちらへ進めばいいのか分からないが、少し進んでみる。
木でできた廊下がギシギシと音を立てる。
引き戸が開いていたので、教室の中を見てみた。
木製の机と椅子が並んでいる。
「これって、大昔の学校みたいだ。」
震えながら、そのまま廊下を進む。
5分くらい経過しただろうか、相変わらず外は雷雨だ。
廊下のほぼ隅に着くと、上下に伸びる階段があった。
どちらへ行けばいいんだろう。
迷う彼女の耳に、かすかな音が聞こえる。
誰かが歌を歌っている。
こんな状況の中、気味の悪い話である。
元の場所に帰ろう。
そう思って振り返ると、元居た場所に人影があった。
ビクッ!として、悲鳴を上げそうになる。
照明が付いていない真っ暗な廊下なのに、
そこだけがろうそくの明かりのように、ぼうっと見えている。
そこにいたのは、髪を禿にした、着物を来た女の子であった。
歌を歌っているのは、その子らしい。
手毬を突きながら、歌っている。
「受け取った 受け取った
大事のお姫を、これまで受け取り、
蝶よ花よと御育て申して、今日の今晩
お雪が降ろうと、お雨が降ろうと、
乗り物千駄、乗り掛け十丁・・・」
歌が進むにつれて、周囲が縮まって来るような感じがして、
徐々に女の子の方に押されてゆく。
徐々に近づく女の子を見ると、無表情で毬を突いている。
「・・・おらが隣の、タガ屋のタガ屋の
お格子造りの、白壁造りの
お駒さんにと、お渡し申すぞ。
しししっかとお渡し申すぞ。」
歌が終わる頃には、千歳は女の子の傍らまで来ていた。
ポーン・テンテンテン・・・毬が外れて、彼女の足元に転がって来る。
震える手で毬をひろい、女の子に差し出す。
俯いて毬を見ていた女の子が、千歳を見る。
『ニターッ』と笑った女の子は、
「ねえ、あそぼ?」
その瞬間、少女の身体は溶け出して変容し・・・
千歳は、廊下に響く悲鳴を上げて、失神した。




