第24話 林間学校の怪・鎮魂の詩
普通に歩けば、神社から10分もすればバンガローに着くのだが、
ゾンビを避けて歩くので、30分近くかかっている。
「ここからはハンドサインで。」
オレは小声でそう言って、井上さんと大きく周囲を回って、
香のバンガローに、隠れていける場所を探す。
井上さんに教えてもらいながら、右へ左へとウロウロする。
香のバンガローに、コッソリ忍び込むには良い位置についた時、
井上さんが、肩をたたいて指差す。
ノリリンたちがグラウンドを徘徊していた。
ちょうどこちらに向かっており、ここにいると見つかってしまう。
井上さんに指で指示して、一旦離れることにした。
幾つも並ぶバンガローの、影に隠れて静かに移動している時、
「ガンジー!」
小声で誰かがオレを呼ぶ。
キョロキョロしていると、上から何かがポトッと頭に落ちてきた。
思わずビクッとして上を見ると、窓が開いてヒラヒラと揺れる手が見えた。
「香か?」
オレが小声で尋ねると、レースのカーテン越しに、
顔を半分だけ出して香が表れる。
「動けなくなっちゃったw」
丁度いい。
「中、入れる?」
オレが言うと、
「ちょっと待ってて。」
しばらくゴソゴソした音が聞こえて、
「OK。はいれるよ。」
スキを見て、ドアから素早く中に入る。
オレが入室すると、外を見張る3人を除いて、
残りがオレと井上さんのところへ集まってくる。
「良かったぁ。」
香が半ベソでオレの腕を握る。
オレは生き残りの数を数える。
「えーと・・ここには7人? そうすると、井上さん入れて8人か。」
香が
「ガンジ、これって何が起こったの!?」
オレは箱の中の古文書を取り出して、
「まだ推測の域を出ないけど、『約束の日』が来たんだと思う。」
先程読んだ、文献に書かれていた内容を話す。
「このままだと、オレ達はこの結界の中から永遠に出られない。
いずれゾンビになって、この中をずっとさまようと思う。」
「じゃ、どうすればいいんだろう。」
悩む香に、オレは自分の計画を話す。
「これは推測になるけど、
古文書に書かれた村が、この付近にあった。
おそらく当時の村があったのは、ダムの底の場所で、
異形の者達が殺されたのが、霧の立ち上る場所だと思う。
異形の者達を処刑して、塚を作ったのが、香のバンガローのある場所。
怪しい気配が2mくらいあったのは、
昔の地面の高さが、そこだったからと思う。
今のバンガローは、当時より2mくらい低いんだ。
で、以前、妙な視点を感じた谷があっただろ?
その谷を登った場所に洞窟があって、その中に祠があった。
祠の中にあったのが、この石。
多分、『鎮魂の石』だ。
今からやることは・・・」
オレはみんなに計画を話し、行動を開始した。
まず、みんなを2班に分ける。
1班は、バンガローの中での加持、つまり呪法組。
2班は、オレと一緒に香のバンガローに行き、調伏もしくは昇天させる組だ。
1班のリーダーは井上さん。
紙に書いた祈祷文を渡し、ただひたすら読み上げ続けろと指示をする。
2班は、オレと香。
井上さんから香に除霊の刀をバトンタッチして、オレのバックアップをしてもらう。
「さて、と。」
オレは部屋の中心にマジックインキで大きな円を書き、梵字を書いてゆく。
文字で描く『金剛夜叉曼荼羅』である。
中心に井上さんを座らせ、周りに女子生徒を座らせる。
「オレ達が出た5分後から、
紙に書いたカタカナを、ひたすら読み上げ続けてくれ。」
スマホをタイマーにして、置いておく。
香には除霊の刀の説明をする。
「これで刺しても、霊体が消えるだけで、本体は死なない」
井上さんのときと同じように実演すると、ビックリしてた。
オレたちが外に出ると、
「じゃ、鍵閉めるね。」
井上さんは鍵を閉め、バリケードを作り直す。
オレと香、もう戻る場所はない。
「いくぞ。」
香に言うと、香のバンガローへと向かった。
香のバンガローは、先程いたバンガローの、角を曲がって3つ向こうにある。
角の手前で、異様な雰囲気がした。
そっと覗いてみると、
ゾンビが大勢、香のバンガローの前に集合して、
ひざまずいて何事か祈り続けている。
『カワソ ヤハジビツラチビタラウ・・・』
最初、何かと思ったが、その発音が、妙に頭に引っかかる。
しばらく聞いていると、突然解った。
「そうか。アイツら、『呪殺法』の裏読みしてるんだ。」
『呪殺法』
人を呪い殺す呪法である。
それを裏読みするということは
「・・・殺された自分たちの黄泉返りをしようとしている?」
オレはいっぺんに事態の危険度が増したことを自覚する。
アイツら黄泉返ったら、どんな厄害があるかもしれないじゃないか!
「香、すっごいマズい事態になってる。
このままだとモンスターが実体化して、この世に出て来る。」
「どういうこと?」
オレはモンスター化した異形の者の集団が、実体化する可能性を伝える。
「そうすると、どうなるの?」
「オレたちだけじゃなくて、この付近の人間全員が
生贄になって、永遠に囚われる。」
香が大口を開ける。
オレは手でスパッ☆と香の口を塞いだ。
「叫ぶとバレる。・・・落ち着け。」
口を塞がれた香は、コクコクしている。
オレは少し考え、順序を確認する。
・・・よし。
「やる事は同じだけど、順序が変わった。
まずは1班の祝詞を待つ。
始まったらバンガローに侵入する。
あと少しだから、できるだけバンガローに近づくぞ。」
オレたちは這いつくばって、そろそろとバンガローへと移動する。
5分後。
第1班。
『ピピピ』
スマホが鳴った。
「始めましょう。」
井上さんが言うと、周囲の女生徒は、全員で真言を唱え始める。
『オン・キリクシュチリビキリ・タダノウウン・・・』
『大威徳明王修法』
井上さんは円の中央に座り、印を結び、
「オンアクウン」と、ひたすら唱えている。
井上さんが徐々に光り始め、大威徳明王に变化してゆく。
明王は調伏の王であるが、
今回は調伏ではなく、召し上げる先導者として現れてもらっている。
古文書にある『異形の者達』は、
おそらく病気で身体に障害を持った人達の集団だったと思う。
村で何がしかの施しをもらおうと、近づいただけだろう。
結果が退治。
無念の怨念が、溜まってしまったのであろう。
今回の真言は、報われない魂を召し上げるミッションである。
井上さんがいるバンガローから瑞雲が立ち上り、
香のバンガローへと広がってゆく。
「よし。行くぞ。」
足音がしないようにバンガローへと近づく。
ゾンビ達は、井上さん達の真言が始まると硬直化して石のように丸くなり、
そこかしこに転がっている。
オレ達は静かに階段を登り、香のバンガローへと入った。
・・・いた。
「大きくなってるw」
香が小声で言った。
中では大きくなった絡まったミミズのような集団が、空中でうごめいている。
床は滴り落ちた粘液で、ベトベトのヌルヌルである。
オレ達が来たのに気づいたのか、
ミミズの中から、ミミズに囚われた女生徒の上半身がヌッと表れる。
蛇女の化身となった彼女は、憤怒の相でオレたちを睨み、襲ってきた。
『ガツン☆』
途中で突然、彼女が止まった。
ガウガウと言いながら、近づこうとするが近づけない。
四方を見ると、オレの書いた呪符が
煙をあげてボロボロになりながらも、がんばっていた。
よし!
オレは印を結び、
「ハラチホラタ シャレイサンマンダ ダラシャデイ・・・・」
『吉祥天陀羅尼修法』を唱える。
これは愛と円満をもたらす修法である。
巌示の母が得意とする修法であるが、巌示だってできない訳じゃない。
唱え始めてしばらくすると、
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛・・・』
絡まった大ミミズが慟哭を始める。
ミミズは少しずつ上へと昇ってゆく。
井上さん達の『大威徳明王修法』とオレたちの『吉祥天陀羅尼修法』。
2つの修法によるコンビネーションが効いて、
異形の者達の魂が、天に召し上げられているのだ。
一方、蛇の化身と化した女生徒は、オレの修法で固まっている。
「香。彼女とミミズの繋がっている場所を、刀で切れ!」
オレは除霊の刀を持った香に指示を飛ばす。
彼女まで一緒に召し上げられちゃ、たまらない。
頷いた香は、粘膜でツルツルした床に、
倒けつ転びつ近づいて、接触箇所を切る。
『ズブッ☆』
蛇の化身は落下すると、徐々に女性へと戻ってゆく。
大ミミズはどんどん上昇して、天井を突き抜け、天へと昇ってゆく。
「・・・アラタドハラディ。」
修法の完成を見て、オレは九字を切る。
『天元業躰神変神通力!』
ミミズは一挙に天上に吸い上げられ、スポーンと飛んでゆく。
よし!
オレはポーチからマジックインキを取り出し、
鎮魂の石に、『静』と記す。
石を床の上に置く。
オレは合掌すると小声で最後の真言を唱え、鎮魂の儀式を終了した。
翌朝は大騒ぎだった。
先生たちは、事が起きたと同時に、事務所からバンガローへと飛び出した。
ところが坂の途中から、どうしても移動出来ない。
すり抜けて、元に戻ってしまうのである。
電話は通じず、どこへも行けず、困ってしまった。
夜明け近くになり、辺りが突然光ったかと思ったら、移動出来るようになっていた。
あわててバンガローに駆けつけてみると、生徒がグラウンドに倒れていたという訳だ。
事件が終わった後、井上さんとオレは、帰りのバスの待ち時間を利用して、
鎮魂の石を持って、祠のある空洞へ向かった。
鎮魂の石は、祠の中に安置する。
井上さんが、
「これでおしまい? 」
オレはニッと笑い、
「これはオマケ。もう魂は送ったから、地上に何も残っちゃいない。
この石は、まだ効力が残っているから用心に、ね。」
二人で手を合わせて、急いでバスの集合地へと戻った。
林間学校から帰って、二、三日後。
通常の学校の放課後である。
香が教室の窓枠に頬を付いて外を見ながら、
「でも、なんかガッカリだなー。」
「ん?」
「だって記憶が残ってるのはワタシと井上さんと、あと少しだけで、
みんな記憶が真っ白。
キャンプは『疲れたなー』でおしまい。コッチが疲れたってのw」
「あのまま生徒全員が行方不明だったら大事なんだから、良しとしないとw」
オレがそう言うと、
「でも、なんかね~・・・」
香は不満そうである。
井上さんとは、あの件以来、学校で一度会った。
「ガンジ君、お疲れ様。」
井上さんは、相変わらずの可愛い雰囲気でニコリと笑う。
「井上さん、この前は、ありがとう。」
オレは感謝の言葉をかけて、気がついた。
井上さんは、例のネックレスを着けている。
オレが気がついて、
「まだかけてるんだ。」
そう言うと、
「これ、返す?」
あいかわらずの、豊かな胸の谷間から取り出した。
オレはニタッと笑って
「それは井上さんにあげたからいいんだよ。
そいつも井上さんの胸の谷間にいたほうが、幸せだからね。」
井上さんは顔を赤くして、バシッとオレの背中を叩いた。
「バカw」
今日も放課後になって、家に帰る。
夕闇迫る時間は『逢魔が時』。
「ガンジー!」
後ろから香が大声で呼んで近寄ってくる。
「実はね・・・」
凝りもせずに、やたらとヘンな相談事を持ってくる。
また『ややこしや』な事件が始まろうとしていた。
これで今回は完了。
出来たら投稿します。
しばしお待ちくださいませm(__)m




