第22話 林間学校の怪・祠(ほこら)
巌示達は追いかけてくる同級生ゾンビを避けつつ、山を上の方へと登っている。
しばらく走ると霧が晴れた。
ここらへんなら安全かなという辺りで、少し休憩をとる。
「ガンジ君、何あれ。ゾンビ!?」
ゼイゼイ言いながら、井上さんが言う。
「・・・推測でいいなら多分だけど、何かに憑依されている。」
オレもゼイゼイ言いながら言った。
「??」
「オレもハッキリしたことは分からない。
ただ昨日の『視線』。あれと無関係だとは思えない。」
井上さんは、すぐに気がつく。
・・・例の視線か。
気がつくと、巌示は井上さんと手を繋いだままだった。
繋いだ手のひらが、汗でびっしょりだ。
手を離して、服で汗を拭う。
息を整えつつ、
「とにかく、まずは調査だ。例の谷間に行ってみよう。」
「バンガローに戻らないの?」
井上さんの質問に、
「これも多分だけど、向こうも退っ引きならない事態になってると思う。」
自分が着けているポーチの中から霊符を取り出して、見せた。
霊符の文字の部分が、プスプスと焦げていた。
少し下にあった青い霧が、徐々に迫ってくる。
「いこう。」
二人は再び、手を繋いで歩きだす。
しばらく歩くと、山の頂上に着く。
月が光る空の下、辺りがよく見えた。
「あ、あそこ!」
井上さんが指を差す。
青い霧の発生源が解かった。
「ダム湖から霧が出ているね。」
井上さんが言う。
具体的にはダム湖の中ほどの湖面から、
もくもくと湧き出しているという感じである。
井上さんが自分の身体に両腕を回し抱きかかえると、ブルッと震えた。
「怖い。」
無理もない。
今のような状態で、こんな光景みれば誰だってビビるだろう。
オレは少し迷ったが、井上さんを後ろからキュッと抱きしめた。
「大丈夫。二人で何とかしよう。」
頭を優しく撫でていたら、少し落ち着いたようだ。
彼女の震えが、少し収まった。
「井上さん、これ首から掛けてて。」
オレはポーチの中をゴソゴソと探り、
中から小指の先くらいの、玉の着いたネックレスを出す。
「これは?」
井上さんの質問に、
「オレが子供の頃、母からもらったもの。ご利益があるから着けていたほうがいい。」
井上さんは嬉しそうに受け取って、首にかけた。
ふと、気づいたように、
「ガンジ君は?」
「オレは大丈夫。」
そう言って腕を曲げ、筋肉を盛り上げる。
井上さんは少し考えて、
「じゃ、これ着けて。」
オレの左手首に、自分の持っていたバンダナを結ぶ。
「わたしからのお守り。」
ニコッと笑った。
オレは井上さんの両肩に手を置いて、同じ高さに屈んで言った。
「もしはぐれたり何かあったとしても、慌てちゃいけない。
お守りを持っている限り、絶対に大丈夫。
オレが君を守るし、二人でがんばろう。」
井上さんはオレをジッと見て、そっと抱きついてきた。
「ありがとう。」
オレは背中をポンポンと叩き、
「さぁ、行こう。」
件の谷間へ向かった。
同時刻。
香達のバンガロー。
「ねぇ、どうしよう。」
同じ班の子が言った。
「このままじっとしてれば、大丈夫かな?」
香はカーテン越しに外を監視しながら、
「今の状況じゃ、何かしようにも動けないよ。」
最初の停電は15分くらいで、なぜか復旧した。
再び室内の灯りが灯る。
香達はアセった。
中に人がいることが分かるとマズい!
あわてて全部消して、常夜灯だけ点け直した。
「暑いね。」
別の子が言う。
「窓、締め切ってるし。」
別の子が言った。
他の子が何か言おうとした時、
『シッ!』
外を見ていた香が注意する。
みんなジッとして固唾をのむ。
・・・汗の落ちる音が聞こえるような静けさの中、
外をゾンビが通り過ぎていった。
もう2時間が過ぎようとしている。
戸を開けようにもゾンビだらけなので、開けることはできない。
ムシムシした空気の中、香達は、我慢を強いられていた。
・・・さらに1時間過ぎた。
状況は、膠着したままである。
立てこもってすぐに、まず武器とバリケードになりそうなものを探した。
武器は部屋付きの小さなキッチンに、ナベとフライパンが見つかる。
包丁は無し。
あと、消火器とホウキとモップ。
無いよりはマシなんじゃないか程度である。
ドアは外開きで、鍵をかける以外には、やりようが無い。
それでもすぐに入れないように玄関に机とイスを置いて、バリケードをつくった。
「このまま朝を待つのかな?」
同じクラスの子が、香にささやく。
「朝になればバスが来る。それまでの辛抱だと思う。」
香は明るく聞こえるように答える。
おそらく朝になれば、みんな元通りになると思う。
だって映画なんかだと、そんな感じだもん。
・・・もし、戻らなかったとしても、自衛隊とか警察が助けに来てくれる。
やはり映画のシーンを考えて、そう思う。
しばらくすると、嫌な考えを思いつく。
・・・朝になったら戻るのかな?
朝になって、みんなが元に戻ればいいんだけど。
朝が来ないとか、私達もゾンビになっちゃうとかするかも。
思考が負のスパイラルに入って、香はどんどん怖い考えが出てくる。
個人的にはそんなこと考えて、すっかり憂鬱になってしまった。
香がああでもないこうでもないと考えている、同時刻。
巌示達は問題の谷間に着いた。
・・何か違和感がある。
井上さんが、草に隠れて辺りをうかがいつつ、
「・・・視線が無い。」
ああそうか。
「あっちの方だっけ?」
オレが上流を指差すと、彼女は頷いた。
まだ霧は来ていない。
視線があったと思われる方向に、慎重に谷を遡る。
巌示達は、ことが起きてからずっと闇の中を移動しているから、
段々目が慣れてきて、かなり暗くても見えるようになっている。
上流にさかのぼってしばらく登ると、川が真っ暗い空洞の中に入っている。
「外、見張ってて。」
入り口でスマホのライトを点けた。
小さいLEDの灯りだけど、まぶしいくらい明るい。
鮮やかなビームが奥まで差し込む。
洞窟は浅いもので、奥から水が湧き出している。
湧き出し口の横に、小さな祠が見える。
後ろを向いて、霧が来ているか確かめる。
・・よし。
「霧が見えたら、言って。」
井上さんに頼んで、奥へ進む。
祠は大きさ1mくらいで、長い間、人の手が入っていないような感じである。
巌示は手を合わせた後、慎重に扉を開ける。
鍵はかかっておらず、キキキィイイという小さな音と共に、両開きの扉が開く。
中には『石』があった。
再び手を合わせて拝んだ後、石を取り出す。
石は河原にあるような自然石で、こぶし大の大きさである。
ライトで照らしてチェックしてみたが、別に何もない。
・・いや、少しだけど、墨のような跡があるな。
巌示がもう少し調べようとすると、
「ガンジ君、来たよ。」
井上さんが入り口から囁いた。
霧が登ってきたのである。
巌示はライトを消して、外へ出た。




