第1話 拳法と陰陽道のハッピーターン(1)
春はあけぼの。
の、より早い時刻、午前4時30分。
巌示は、寺の裏の林の『秘密基地』で、いつもの練習を始める。
何本もの木に、ゴザが藁縄で結わえ付けてある。
林を裸足で移動し、蹴ったり突いたりする。
もう何年もやっているので、足の裏は靴底のようになり、あまり痛くは無い。
小学生の頃より、巌示に対して、
師匠は、かなり厳しいトレーニングを課してきた。
無理もない。
入門した理由が、『股間の張りを沈めるため』。
巌示の父より話を聞いて、師匠は、
「いい度胸してるじゃないか##」
遠慮なく鍛えた。
巌示もガンジで、頑丈な身体なのか、鍛えても鍛えても、
『まいった!』
が出なかった。
性格もニブい。
「修業が足りん!」と父に怒られれば、そうかなと思い、
「負けるな!」と師匠に言われれば、バカみたいにがんばった。
「オマエ、絶対バカだろ。」
妙蓮寺の駿馬に、いつも言われている。
吐く息は、まだ白い。
1時間も練習していると、全身から湯気が立ち上って来る。
軽く筋トレをして、練習を終わる。
練習の後は、門前の掃除である。
何も考えず、ただひたすら竹ぼうきを動かす。
終わると母屋へ帰り、作法に従い朝食を食べる。
「父様母様、行ってまいります。」
正座して一礼した後、学校へ急ぐ。
巌示の父は、覚厳寺の住職である。
代々続く、密教系の寺であった。
母は、京都『土御門』の流れをくむ、陰陽道の家系である。
「おう、ガンジー、オッハ!」
「おう、ノリリン、オッハ!」
同じ『ベンチプレス同好会』に属する則武に挨拶する。
「ガンちゃんおはよー♪」
「アッ、桜先輩、おはようゴザイマース♪」
もう1つ入っている、『家庭科研究会』の桜先輩にも挨拶をする。
目から火花が散った。
「おい、そのドクソ気持ち悪い声、なんとかしろw」
香だ。
大体、香はうるさい。
オレが好きな同好会に属して、何が悪い。
たまたまそれが、『筋トレ』と『家庭科』だっただけじゃないか。
バーカ。
オレはいつも『ボーッ』とした顔で考えてるから、解んないだろ。
ヤーイ。
そう思ったら、尻にキックだ。
「オマエの考えてることは、解るってのw」
痛ッテぇ~w
教室に入り、授業が始まると、オレは『梵我一如』と化し、
現世を解脱する。
早い話が『半分寝ている』。
同じクラスのノリリンと香にはバレていて、
隣の席のノリリンには、時々悪さをされ、
香からは、「アンタ、寝てて、よく授業の内容、憶えてるよね。」と褒められる(?)
そう言えば、担任の先生には、少し感謝されている。
ノリリンは身長183cm。
分厚い胸板に、上腕三頭筋が細い女子のフトモモくらいあり、
オレは全身が岩のようにゴツい。
どうも話では、問題児が集まったクラスだったらしいのだが、
オレ達2人が阿羅漢のように睥睨すると、ヤワい連中は黙ってしまった。
それでも1人、跳ね返りがいたんだけど、
ソイツが騒いだせいで、オレの瞑想と、ノリリンの早弁が邪魔されて、
覚醒したオレ達は、ソイツに「ちょっと顔貸せ」。
人の道というものを、シッカリと伝授してあげた。
それから平穏な日々が続いている。
「香。今日はベンチプレス同好会があるから、帰りが少し遅くなる。待ってて。」
「了解。」
香の腕は、大分良くなってきた。
まだ吊ってはいるが、あと少しでとれるはずだ。
そうすれば、うるさい香から離れて、
オレは友人たちと、楽ちい楽ちい〇V鑑賞会が待っているぅ♡
トレーニングルームへ行くと、大勢の人間が筋トレをしている。
「さて、イきますか!」
「ホントに、イくのぉ~?」
ノリリンが後ろから忍び寄り、
Tシャツの上から、オレの乳首をコリコリと嬲る。
「アッ♡ よせっ!」
乳首はオレの、性感帯なのだ。
2人1組で、トレーニングを始める。
何かあった時の用心である。
2時間みっちりと、トレーニングする。
練習も終わり、待ち合わせの場所へ行くと、香がいない。
「おかしいな・・・」
その時、チリチリと焼けるような感触がする。
護符を取り出してみると、香に持たせた護符の半分が、かなり焼けている。
『マズイ!!』
オレは素早く、次々と印を結び、護符を広げる。
『諸処の式神よ、我に道を示せ!』
2つの護符が立ち上がり、2つの式神が現れる。
「行けっ!」
時間稼ぎをしつつ、オレは戦いの準備を始めた。




