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その男、未経験につき  作者: 三久
第1扉 陰陽事始め
18/25

第17話 天井を歩く女・2



夜の2時。

オレは本堂から少し離れた場所にあるお堂の中に、ろうそくの火を灯す。

内陣は掃き清めてある。


「慎み敬って、泰山府君、諸眷属等に(もう)して申さく。

恭順供養を以て瑜伽荘厳(ゆがそうごん)の壇を飾り・・・」

泰山府君に対する祭文である。


内容は『どうか祟らないでネ♪』


桜先輩の祖先である、武蔵の姫を現世に留めることによる違反行為で、

オレに『バチが当たる』のを防ごうというわけだ。

檀家の人が持ってきた供物を流用して、モリッと差し上げる。

ひたすら『バチが当たるなーバチが当たるなー』と念じて、

通ったところでホッとする。




朝の通学時間。

いつものようにあいさつが始まる。


「ノリリンおはよぉー♡」

「ガンジぃ、おっはぁよぉー♡」

最近、二人の流行りは、オネエ言葉での挨拶である。

香は「キモいから、朝からやめえぃ!」と怒るが、

「女の嫉妬、イヤよねぇ。」

「イヤよねぇ♡」

なーんてやっている。

楽しいからいいのだ。



桜先輩がいたので

「桜センパイ、オハヨーございまぁーす♡」

と挨拶する。


いつもなら「ガンちゃん、おはよー♪」ってくるのだが、今回は違った。


オレの胸ぐらをつかんで「フッ!」

見事な背負投げが決まる。


近くにいたみんなはビックリだ。

オレもビックリである。

桜先輩が柔道出来るなんて、聞いたことがない。



先輩は冷たい眼をして、

「陰陽師、朝からご機嫌だな。」


ゾッとした。

姫に変わっていることを忘れていたのだ。

慌てて起きて、

「失礼しました!」

先輩は「フンッ」とバカにして、行ってしまった。




放課後。

桜先輩・・・もとい、武蔵の姫は家庭科教室へと表れる。



今日一日で、先輩はすでに伝説と化していた。


電車の中で、チカンを捕まえ吊し上げ、

駅前にいて、イチャモンをつけた半グレを叩きのめし、

ナメた挨拶をしたオレを投げ飛ばした。

ソフトだった先輩が常に油断なく身構える、

ハードボイルドな女闘士に変身したのである。


「いつの世にも、クズはいるものだな。」

入ってきたなり、冷めた眼でオレを見る。

ヤッベぇw

冷や汗をかいて、下を見る。



「昨夜も出たぞ。」

姫が言った。

「いかがでした?」

オレが尋ねると、

「間違いない。土蜘蛛だな。」



昨晩、オレは土蜘蛛について調べた。

元は天皇への恭順を潔しとしない集団に対する蔑称(べっしょう)だったらしい。

気になったのは、女性が首長で反抗した集団が多数あったという記述で、

妙に心へ引っかかった。

妖怪としての土蜘蛛は、憶えていた通りである。

日本を『魔界』にしようとする魑魅魍魎(ちみもうりょう)の総称、

あるいは頼光(よりみつ)に対抗する蜘蛛の化物。



たびたび出てくる『源頼光(みなもとのよりみつ)』。

『よりみつ』は、『らいこう』とも読む。

安倍晴明と時代を重複させる、武士の妖怪退治専門家(ゴーストバスターズ)である。

配下に渡辺綱(わたなべのつな)坂田金時(さかたきんとき)碓井貞光(うすいさだみつ)卜部季武(うらべのすえたけ)を従えて、バッサバッサと妖怪を退治した。


頼光(らいこう)かぁ。」

オレがボソッとつぶやくと、

「知らぬのか?」

意外そうに、姫は言う。


日本人にとって近年に至るまで、

日本で妖怪退治人(ゴーストバスターズ)といえば、

清明よりも頼光が有名であった。


オレは首を振る。

頼光は知っている。

並の人以上に。


オレは、父方の祖先が源頼光である。

母方の祖先が安倍清明なので、祖先は共に妖怪退治人(ゴーストバスターズ)である。

・・・オレ的には嫌な組み合わせだw



夢の中の話を続けよう。

「土蜘蛛は天井に張り付いて、ジーッと(われ)を見ていた。

そのうち、こそこそと動き始めた。」

武蔵の姫は、手振りで蜘蛛の動きを真似る。


「少し近づいたところで、我に気づいたらしい。

ニターッと笑い、

「姫か。」

「ぬしがわが子孫に対し、(はかりごと)をなしておる故、舞い戻った。」

そう言うと、カカと蜘蛛は笑い

「出来るものならばやってみぃ。すでに死んでおるくせに。」

そう言うと、立ち去ったのだ。」


姫はオレを見ると、

「なあ、陰陽師。戦う意志があっても戦えないというのは、くやしいなぁ。」


姫の気持ちは、オレには分かる。

しかしながら、この世に(ことわ)りというものがある。

みだりに理りを破れば、

いかな陰陽師といえども、泰山府君からの責を負うことになる。



「そろそろ、なぜ土蜘蛛が出るのかという説明をして頂きたい。」

オレは姫に説明を求めた。


姫は遠いものを見る目をして、

「長い話になるが、聞いてほしい。」

そう言って、話を始めた。




そもそもの事の始まりは、一人の女の矜持(きょうじ)から始まっている。


その女は銀と言って、町娘であるが美貌と容姿で有名であった。

城からも見物する武士が数多く訪れ、ぜひ嫁にという声も数多くあった。


銀はその容姿に反して、性格は悪い。

その性、驕慢(きょうまん)にして強情。

男が欲しいとなれば決して譲らず、どんな手段を講じても手に入れた。



ある時、詣でた寺に一人の僧がいた。

類まれなる美僧で、ひと目で銀は気に入った。


「お坊さま、胸が苦しくて仕方ありません。読経をあげていただけますか?」

鈴のなるような声で囁いた。

美僧は、すでに銀の性格を見抜いている。

懐より小袋を取り出して

「これなるは正保丸(しょうほうがん)。飲めば気分が治ります。」


その他、色々と姑息(こそく)な手段を用いて取り入ろうとしたのだが、

取り付くすべもない。


「くやしや!」

一度狙った男はすべて手に入れてきた。

言うことを聞かない男がいることに、我慢がならない。

「どう仕返ししてくれようか!」


とにかくまずは気を引くことである。

手練手管を総動員して、僧に当たった。



僧は世俗を捨てている。

当然、色欲も戒めるべきものとして、銀を相手にしなかった。


徐々に、取り入ろうとする態度が狂気じみてくる。

「なぜ私を振り向かぬ!?」

いつしか、あざ笑おうとして行い始めた(はかりごと)に、本気となった。

ミイラ取りがミイラになったのである。


銀は本気で美僧のことを愛し始めていた。

しかしながら、あまりの執拗な攻めに、

美僧は呆れ果て、会うことすらしなくなっている。



万策尽きたある夜、

「必勝の手段あり」と唱える破戒僧に、銀はその身体を委ねる。

破戒僧は銀の身体を(もてあそ)ぶのと引き換えに、とある呪法を授けた。

『愛染明王呪法』

恋愛成就の必殺呪法である。


次の日、銀は教えられた通りに呪法を唱える。

元々の(こわ)い性格ゆえか、呪法はすんなりと通ってゆく。



その頃、美僧は、師匠である老僧と共に、城に巣食う妖怪と戦っていた。


「ム!?」

師匠たる老僧は、戦いの最中、妙な呪法が侵入したことに気づく。

老僧は美僧に妖怪との戦いをまかせ、自らは呪法の大本を辿った。


遠視したところ、美僧を悩ます(くだん)の娘の呪法である。


「やむなし。」

老僧は、妖怪と一緒に銀をも退治すべく、結界を築く。



美僧が倒れる寸前に、老僧は結界を完成して妖怪を倒し、銀へ『返し』を送った。


妖怪は倒れ、美僧は重症を負うが助かる。


美僧は怪我が治ると、妖怪を倒した英雄として、殿から褒美をもらう。

それは、自らが身を挺して守った姫である。

美僧は還俗して侍となり、姫を妻に迎えて藩主となった。



一方、銀である。


『返し』を受けた銀は悶え苦しみ、気がつけば顔は崩れ、身体は蜘蛛となっていた。


「くやしや。

我はこのように妖怪となるも、あやつは姫をもらい、藩主となるとは!

この思い、いつか晴らさずにはおくべきか。

子々孫々まで呪ってくれる!」


そう言い残すと、何処とも知れず逃げていったのである。




武蔵の姫より話を聞いて、巌示はムムと唸る。

こいつは難儀な話だ。そう思ったのである。


「老僧は美僧と姫、ひいては子孫に対する結界を築いてくれた。

ただ、その結界は7代ごとに弱くなる。

土蜘蛛めは、その弱い時を狙って幾度か攻撃を仕掛けてきた。

今まではなんとか凌いできたが、今回は陰陽師、お主の番じゃ。」


桜先輩を守るために、巌示は妖怪を退治しなければならないらしい。




忙しい月が 終わりました。

また始めます。ヨロシク。

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