第16話 天井を歩く女
ある日の放課後。
家庭科研究会の桜先輩が
「ガンジ君、ちょっと。」
何だろうと思ったら、最近、気になる夢をよくみるという話だった。
「夜になると大きな知らない部屋にいて、寝ている自分が見えるの。
でね、気がつくと今度は寝ている自分が、天井にいる何かを見ているの。
それがね、最初は、ずーっと遠くの部屋の隅ぃ~の方だったんだけど、
だんだん寝ている場所に、近づいてるの。
気がついたら、もう、怖くって。」
心配そうな表情でオレに言う。
オレは先輩に、
「えーと、桜先輩。どうしてそんな話をオレに?」
先輩は
「最初、この話を香ちゃんにしたの。
そしたら、『その手は巌示が得意だよ!』って教えてくれて。」
嬉しそうに言う。
あぁ~の、ヤぁ~ろオォ~w
桜先輩は高校二年、オレの一年先輩だ。
ぽっちゃり型の可愛い人で、ハッキリ言ってオレの好みである。
胸もふくよかに大きく、おしりもふくよかで大きい。
オレは時々横目で見ては、抱きしめてフニフニしたいと思ってたりもする。
「フム。」
オレはしばし考え、
「先輩。少々立ち入った話を聞くことになりますが、いいですか?」
桜先輩はオレを見て
「どんなこと?」
オレはそれを了解の印ととって、話を進める。
「先輩の家って、どんなウチ?」
先輩は
「えーと、家族は5人で、・・・」
しまった。聞き方間違えたw
「ゴメン、先輩。聞き方間違えた。先輩の家って、由緒ある?」
先輩はキョトンとしてる。
「由緒って?」
「えーと。昔はお殿様の家だったとか?」
オレがそう言うと、遠い目をして
「ああ~。そういえば、そういう話を聞いたような・・・」
このまま続けても、埒が明かないなw
幸い、辺りには誰もいない。
「先輩、目を閉じて。」
オレが言うと、やっぱりキョトンとしたが、素直に目を閉じた。
オレは先輩の後ろに回って、眼を右手で覆い、左手で後頭部を支える。
「妙見菩薩よ。その無限の慈悲を明らかにしたもう。
オン ソチリュシュタ ソワカ オン マカシリエイ シベイ ソワカ。」
真言が効力を発揮して、過去への道が通ってゆく。
「あなたの名前と年齢をお教えください。」
オレが言うと
「安藤桜。17歳。」
「あなたは今から、どんどん若くなってゆく。
どんどんどんどんどん・・・。今、あなたは何歳ですか?」
「3歳。」
「何か見える?」
少し後、
「えーとね、広い部屋。寝てる。」
よし、初めて見たのは三歳か。
「他には?」
「・・・人がいる。」
「人? 何人?」
「わかんない。」
少ししたら、質問しても答えなくなる。
よし、次。
「あなたはさらに若くなる。
どんどん若くなって、お母さんのお腹の中へ。
もっと若くなって前の人へ。
どんどんさかのぼってむかーしの人へ。
さーて、あなたが見た人達は、どこにいるのかな?」
「そなた、誰じゃ。」
突然口調が変わる。
「わたくしは、はるかなる未来から、貴方様を探しにまいりました。」
オレの手で眼を覆われたまま、先輩はニヤッと笑う。
「陰陽師か。」
「ハイ。」
「何用じゃ。」
オレは
「まず貴方様は、どなたでしょうか。」
先輩はフフと笑ったあと、
「武蔵の国にある、とある藩の姫じゃ。」
やはり。
桜先輩に曰くありというのは正解である。
「姫様にお尋ねします。『天井に何かいる』ご存知ありませんか?」
オレがそう言うと、先輩はカッ!と口を開けて、
「また出おったか!」
「何が出たのですか?」
オレの問いに、
「『土蜘蛛』じゃ!」
オレはビックリする。
「土蜘蛛ですか!?」
オレの反応を聞いて、先輩はニヤッと笑い
「陰陽師。お主、まだ修行が足りんな。」
そのとおりなので、オレも素直にハイと答える。
陰陽の道を進むに当たって、
相談者に対する処世術というものがある。
陰陽師は、いかに『初めて』のものを見たところで、驚いてはいけない。
知っているものとして扱わなければならない。
依頼人に不安を感じさせてはいけなのである。
陰陽師は、占筮を駆使して過去と未来を見聞きする。
法術を使い、この世のモノならざるモノを使役して、災いを払う。
依頼人には、絶対の信用をおいてもらわないと術が施せない。
相談者にとって、陰陽師は全能の者であらねばならないのだ。
「で、土蜘蛛とは?」
オレが質問すると、
「土蜘蛛を知らんのか!?」
驚いたようである。
源頼光による土蜘蛛退治とか、妖怪の土蜘蛛なら知っている。
「それさ。それ。」
「その土蜘蛛が、また何用で?」
オレの質問を姫は無視して、
「なあ、陰陽師。
このまま話をしても、この娘御では事件は解決できぬ。
われをそのままにして、解決するまでこの世にとどまらせてくれまいか。」
突然のリクエストに、オレは少々戸惑う。
・・・まあいいか。
オレは真言を使って、桜先輩の祖先である姫様を先輩の中に固定する。
固定は出来たが、陰陽道の主である泰山府君より、
どれくらいの期間、お許しをいただけるのかは判らない。
迷っているオレに姫は、
「泰山府君のお許しが得られるかの心配をしているのであろう。
確かに冥府の主である彼の君は、
生者と死者が親しく交わることを潔しとはせぬ。
しかしながら、この土蜘蛛の件は、
わらわが直接の当事者であり、子孫であるこの娘の将来が掛かっておる。
あたら疎かにはできん。
お主にも迷惑はかかろうが、なんとかしてほしい。」
オレとしても、桜先輩の身に、何か起こることは不本意である。
「承知いたしました。」
オレは再び真言を唱え、取り急ぎ泰山府君をなだめるべく、措置をした。




