第15話 夜泣き人形
修行の一環ということで、オレも寺の法要に参加したときの話。
檀家の山田さんが、人形を持ってきた。
三歳児くらの大きさがある、かなり大きな市松人形である。
「大きいですな。」
父が言った。
「ちょっと困ってまして。」
山田さんが、まいったという感じで言う。
どうも人形が、『夜泣き』するらしい。
寺には倉庫があるんだが、この手のモノには、事欠かない。
呪いの人形とか、不幸の手紙とか、色々気味が悪いモノが集まっている。
大体は自分勝手な思い込みのものが多く、困って持ってくる。
山田さんの人形は、それらとは違って、由緒のあるものだった。
人形は、山田さんのお婆ちゃんが生まれた時に作ったというモノで、
お婆ちゃんのお父さん(曾祖父)が、2人続けて早く死んだ自分の子供を気にして、
お婆ちゃんが早く死なないように『身代わり』として作ったものらしい。
そのせいか、お婆ちゃんは、これといった病気もせずに成長し結婚して、
子供が出来て孫も出来、まずまずの人生を送ることが出来た。
最近は、加齢のためか伏せることが多くなり、
医者からも、覚悟はしておいてくれと言われる状況になっていた。
問題が起こったのは、お婆ちゃんが入院してからである。
「『そろそろお迎えが来るから、入院しようかねぇ』そう言って入院したんですよ。」
山田さんは、応接間に座って話をしている。
お婆ちゃんが入院して二、三日してから、
誰もいないはずのお婆ちゃんの部屋から、泣き声がする。
最初に気づいたのは、高校生になる次女だった。
夜、廊下を歩いていて気づいたという。
お婆ちゃんの部屋を開けて、灯りをつけて見回したが、異常はない。
ヘンだなと思ったが、その時はそれで終わった。
それから2日後、嫁に行った長女がお婆ちゃんの部屋に泊まった。
夜中に目覚めると、泣き声がする。
枕元にあった灯りを点けてみると、泣き声が止んだ。
気のせいかなと思って消してウツウツしだすと、また泣き声がする。
「これは気のせいじゃない。」
そう思った長女は、音の方向を確かめてから灯りをつけた。
泣いていたのは、市松人形だった。
「その翌日、お婆ちゃんに会いに行ったんですが、
病院で聞くと、連絡しようとしていたところだ、ということでした。
毎朝の定期検診で訪れると、すでに意識がなくなっていて、
介護はしているが、ここ二、三日が山だと知らされました。」
それでなんですが、と、山田さんは話を続ける。
「次女が言うには、毎日泣いているということなんです。
もう気持ち悪いって言うんですか、どうしたらいいんだろうって言うんですか、
困ってしまいまして。」
父は、じっと人形を見て、
「確かに何かの意志は、感じますな。」
「お婆ちゃんが亡くなってからも、これがずっと泣き続けるなんて考えると、
気持ち悪いって家人が言うんです。
引き取っていただけませんか?」
父はしばし考えて、
「承知しました。こちらで預からせていただきます。」
山田さんは、明らかにホッとして、
「助かります。」
一礼した。
山田さんが帰ると、
「本堂に持っていって、菩薩様の横に置いておけ。」
と指示される。
「この手は冴子がいたら、一発なんだけどな。」
父はボソッと呟いて、応接室を出て行った。
ちなみに冴子というのは、オレの姉である。
色々所要が済んで、そろそろ辺りが静かになる夜10時頃。
オレは本堂へ行ってみる。
ホントに夜泣きするか、確かめるためである。
「シクシクシク・・・」
小さい声で、さめざめと泣く声がする。
非常灯の灯りに照らされて、かすかに見える本堂の中で、
確かに市松人形は泣いていた。
じーっと見ていたオレは、菩薩像の横にあるロウソクに火を灯し、線香を燻らす。
オレは、経をあげる。
「一心頂礼 万徳円満 釈迦如来・・・」
しばらくすると、『ムリッ ムリッ』と人形から何かが姿を現す。
見ると、一匹の『餓鬼』である。
餓鬼はオンオンと泣いていた。
「オレはコイツの祖先に、虐げられたモノだ。
死ぬ間際に『一族が途絶えるように』と一心に願って死に、餓鬼になった。
ある時、コイツの祖先に、うまく取り憑くことが出来た。
一人二人早死させて、うまくいくかに思えた頃、
人形師が俺を、この人形に閉じ込めやがった。
このババァ、生まれた時から能力があって、オレの姿が見えてたらしい。
おまけに霊力の格が高くて、この人形にずっと閉じ込められていた。
挙句の果てに、このババァ、俺を一緒に、あの世へ連れていくつもりだ。
もう、悔しくて悔しくて・・・」
オレは経が終わると合掌し、ロウソクを消して眠ることにした。
後日、お婆ちゃんは亡くなり、ウチの寺に入った。
市松人形は、他の厄介なモノ達と一緒に燃やされ、供養された。




