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その男、未経験につき  作者: 三久
第1扉 陰陽事始め
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第13話 背中に何かいる



世の中、見なくても良いものを見てしまうヤツって、いるもんだ。

タカヒロも、見なくても良いものを見てしまうヤツだ。


ある日、電車に乗ろうと駅までやってくると、

大勢の人がいる。

何かと思ったら、電車との人身事故で、処理中らしい。


「メンドいな~。」

そう思って、電車待ちの列に並んでいると、

踏切で現場を見ている人の中に、黒い人がいるのに気がついた。


大勢の人がいる仲で、ソイツだけが黒い影みたいになっている。

生きている人間でないことは、すぐにわかった。


「なんだ、あれ?」

そう思ったが、前にジーッと見ていたら、憑いてきたヤツがいた。

離すのに苦労したから、今回は相手にしないのが一番と思い、知らん振りをする。


時々、チラッチラッと現場を見るフリをして見ていたら、

とある男の背中に乗って、一緒に移動していった。

その時はそのままで、また再会するまで、すっかり忘れていた。



再び会ったのは、街中の交差点だった。


向こうから、黒い影をおぶった人がやって来る。

『アッ、アイツだ!』

と気がついたのがマズかった。


『目が合った』と気づいたときには、もう遅い。

気がつくと、ソイツはタカヒロの背中に乗っていた。



それ以来、身体の調子が悪くなってゆく。

病院に行っても「疲れでしょう」と言うだけで、はっきりした病名は、分からない。


当然だ。

アイツをおぶっているせいなんだから。


何やってもダメ。

日に日にタカヒロは衰えてゆき、考えるのも面倒になっていった。




巌示がタカヒロを見た時、驚いた。

生きているのが不思議なくらい、生気が無い。


タカヒロは同じ中学出身で、知らない仲じゃない。

無視できなくて、思わず声をかけた。

「おい、タカヒロ。どうした!?」


背中を見ると、吸精鬼が憑いていた。

「厄介なヤツに取り憑かれたな。」


ボーッとした目で、タカヒロは巌示を見る。

「あ。ガンジ。・・『これ』、見えるのか?」

「ああ。」


「オレ、もうダメかも。」

タカヒロが、蚊の鳴くような声で(つぶや)いた。


このままじゃ、マズい。


「タカヒロ、今週の土曜日の夕方、オレの家へ来い。オレがなんとかする。

おい、わかったか?」


ボーッとした顔で、

「あ、そういえば、オマエの家って、寺だっけ。」

「いいか。土曜日に来いよ。」

そう言って、別れた。




土曜日の夕方。

タカヒロは覚厳寺へやって来た。


「おう、待ってたぞ。こっちだ。」

寺の本堂に招き入れ、菩薩像の前に座らせる。



吸精鬼をよく見る。

鬼の口はすでにタカヒロと一体化していて、首の根元でくっついていた。

ヤツメウナギみたいな顔をして、オレをギョロギョロ見ている。


オレは少林寺拳法の法衣を(まと)っている。

僧侶の制服である袈裟(けさ)より動きやすいので、いろいろな作業に向いていた。


「『オン マユラキ ランディソワカ』 これだけ唱えていろ。」

そう言ってタカヒロを正座させ、合掌させる。



オレはタカヒロの後ろに座り、

「ノウモボタヤ ノウモタラマヤ ノウモソウキヤ・・・」

『孔雀明王呪経』を唱える。

一切の害毒を平らげて、浄化する陀羅尼だらにである。


今回は、呪経が通り易くするため、焼香を行っている。

呪経が進むに従って、吸精鬼がムズムズと動き始める。



ある瞬間、後ろにいるオレと吸精鬼は目が合った。

ヤツは、パッ☆と乗り移ってきてオレにおぶさり、

オレの首の根元に口を当てて、精気を吸い始める。


オレは構わず、そのまま誦経を続ける。

吸精鬼は、一生懸命、オレの精気をチューチュー吸っている。



そのうち段々、ヤツの姿が見すぼらしくなってゆく。

シオシオと(しな)びて、最後にはヒモのようになった。


オレはヒモのようになったヤツを、つまんで焼香の中に入れる。


「・・ノウマクハナタン ソワカ。」

焼香の煙と共に、ヤツは燃えて、消えていった。




しばらく経った、ある日の放課後。


元気になったタカヒロは、オレに、

「なぁ、ガンジ。 なんでオマエ、アイツに吸われて平気だったんだ?」


オレはフフと笑い、

「アイツが吸っていたのは、菩薩像。

オレが身代わりにさせていたのさ。

アイツ、一生懸命菩薩様の精気を吸うから、召し上げられてしまった。」


タカヒロは、

「スマン。助かった。」


オレはタカヒロにお守りを渡し、

「オマエ、こういうことに弱そうだから、これ、渡しておく。」

孔雀明王の(じゅ)の入ったお守りだ。



それからタカヒロは、色々難儀なモノは見なくなったし、

危ないモノも、近寄ってこなくなった。



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