第12話 鏡の奥からやって来るモノ(2)
翌日の昼下がり。
オレ達は新庄先輩の家にいた。
話に聞いていた通り、本格的な洋館である。
玄関から入ると、少し古い家の匂いと床に塗るワックスの匂いがした。
客間に通され、話をする。
新庄先輩は女性で高校2年生。
落ち着いた、お嬢様っぽい雰囲気の人である。
「ガンジ君。わざわざありがとう。」
結い流しの髪に赤いリボンが古風で、大正時代のお嬢様っていう感じがする。
ポーッ♡と見ていたら、香に足の甲をギュッ☆と踏みつけられたw
「香から事情は聞いています。
もし本当に何かがやって来たとすると、これは中々なことです。」
オレは出された紅茶を少し飲んで話を続ける。
「先輩、何かしませんでした?」
先輩はオレを見て、
「何か、とは?」
オレは先輩と、ジーッと目を合わせていたが、何も喋らないので、
「普通、遊びで合わせ鏡をしても、何も出てきません。
出たとすると、参加した誰かが『何か』やってます。」
しばらく2人で見つめ合って探り合いをしていたら、先輩が目を伏せた。
「部屋を見せて頂いて、いいですか?」
オレが尋ねると、少し躊躇したが、
「どうぞ。」
先輩の部屋は綺麗に整頓されていた。
・・かすかに気になる残り香がある。
スンと匂いを嗅いだオレは、
「降魔の儀式ですか。」
ビクッとした先輩だが、言葉を無視して、
「鏡があのようになって、本当にビックリしました。」
「・・・」
オレはフゥーッと1つため息を付く。
「どういう目的かは存じ上げませんが、『人を呪わば穴2つ』と言われます。
しくじれば、『返し』が来ますよ。」
「・・・」
オレは香に、
「用は済んだ。帰ろう。」
「え? もういいの?」
玄関で、
「お騒がせして、すいませんでした。」
軽く一礼して帰る。
帰り道で香が、
「あんなのでいいの?」
オレは前を見たまま、
「本人が喋りたくないっていうのなら、こちらも黙ってる。
多分、先輩は『何か』やってる。
『返し』の話をした時、ビクついてたし。
オレは、オマエに影響がなければいいから、放っておくさ。」
香は少し心配して、
「ホントに影響は無い?」
オレは香を見て、
「そんなに心配なら、人の企みに、ホイホイ乗らないこった。」
「だって、面白そうだったんだもんw」
オレはハァーッとため息を付いて、お守りを渡す。
「とりあえず、お守り持っとけ。
少し怖い目に合うかも知れないが、まあ多分大丈夫だ。」
香は、まだグズグズ何か言っていたが、無視して帰った。
それから2ヶ月ほど経った、雨の夜。
オレは自室で宿題をやっていた。
「ん?」
何かがやって来る予感がする。
後ろを向くと、闇が渦を巻いている。
しばらくすると、中から何かが実体化されてきた。
『初めまして。』
丁寧な仕草で一礼する、
チョークストライプのスーツを着た、細身の男が立っていた。
身長は180cmくらい。
顔に『笑う仮面』を着けている。
「何か用かな。」
オレは落ち着いて尋ねる。
男は、
「さすがは東洋の霊媒師。
年齢に関わらず、落ち着いてらっしゃいますね。」
気取った仕草で、
「ワタクシ、こういう者です。」
1枚の名刺を渡す。
『よろず請負人『ジョーカー』』
オレは、
「で、ジョーカーさんは、オレに何か用かな?」
再び尋ねる。
ジョーカーは、
「何、事後報告ですよ。
あなたもご存知の新庄さん、彼女の願いを聞き届けました。」
「願いの内容を聞いてもいいかな?」
ジョーカーは、また丁寧に一礼して、
「もちろんですとも。
彼女の願いは、とある男性と、その一族を不幸にすること。
具体的には、彼の会社を財政的にも社会的にも破綻させました。
結果、彼と一族は信用を失墜させて、揃って行方不明になってます。」
おそらく一家全員で自殺でもしてるだろう。
・・・可愛い顔して、エグいこと望んだものだw
「見返りは、あの夜参加した女性4人の、各5年分の寿命。
2人は頂けたんですが、1人はアナタの防御で取ることが出来ません。
仕方ありませんので、新庄さんから10年分、頂きました。」
「・・・」
「ちなみに新庄さんですが、元々の寿命が35年でして、
27歳の時に病気が発症して、闘病生活に入る予定になっておりました。」
「・・・」
「新庄さん、アナタを相当恨みましてね。
残りの人生を捧げるから、ワタシに追加の仕事を頼むとのことでした。
彼女には『検討してみます』と答えてあります。
まずはアナタを見ないことには、割に合うかどうか、わかりませんから。」
「で、どうなんだ?」
オレはジョーカーに尋ねる。
ジョーカーは、ホッホッホッと笑いながら、手をヒラヒラ振って、
「イヤですねぇ。
『検討する』は、ジェスチャーですよ。
霊媒師と競い合っても、良いことなんかありませんもの。
大体、苦しみながら死んでいく人間を見るのが楽しいのであって、
寿命を取って、アッサリ死んでもらっては、楽しさ半減です。
新庄さんは、もうすでに寿命というお代は頂いてますので、
後は苦しみつつ死ぬのを見るのが楽しみ。
そもそも、これ以上取るものがありません。
アナタにはこれから、私をごヒイキにしてもらいたいと思ってのご挨拶です。」
中々エグい性格してるな。コイツもw
「ワタシを指名の場合は、夜0時から0時30分の間に合わせ鏡をして、
名刺を立てかけて、私の名前をお呼びください。」
再びピシッと背筋を伸ばして、丁寧に一礼して、
「これから、よろしく、ご贔屓の程を。」
ニヤニヤ笑いを残したまま、姿を消した。
オレはそれ以来、学校で新庄先輩の姿を見ていない。
話では、休学して入院し、闘病生活に入ったらしい。
入院直前の姿を見た人の話では、老婆のような姿だったという。
夏はやっぱり怪談。
コツコツいきます。




