最後の思い出。
「君の笑顔を一番近くで見ていたかった。君の辛さも寂しさも受け止めたかった。だって、君は私にとって初恋の人だったんだから。」
僕は、もう一度文を読み直して見た。でも、何回読み返してもそこには
「窓の外を眺めるあなたに恋をしてしまった。」
と書かれてあった。僕は、頭の中が真っ白になった。冬子が、僕のことを好きだなんて。そんなことがあるのか。そう思っていると、僕はあることに気がついた。別に、窓の外を眺めることができるのは僕だけじゃない。窓沿いの席の全ての男が対象になるんだ。そのことに気がついた途端、心が少しホッとしたと同時に何故か急に寂しくもなった。
「そうだ、冬子に連絡を届けなくちゃいけないんだった。」
僕は本来に用事に気づき、慌てて教室を後にした。ちなみに、冬子が書いているあの日記は、ちゃんと机の奥にしまった。
僕があの日記に書かれている真実を知るのは、もう少し後のことだ。
僕は冬子の家に着き、家のインターホンを鳴らす。
日記を読むのに夢中になってしまい、学校が出るのが遅くなってしまった。だから僕は少し早歩きで冬子の家に来た。そのため、少しだけ額に汗をかいている。
インターホン越しに冬子と簡単な挨拶を交わし、連絡を届けに来たとだけ用件を伝えた。すると冬子はちょっと待っててとだけ言い残し、インターホンを切った。
ガチャッとドアの開く音がした。そのドアの後ろから、寝間着姿の冬子が出てきた。僕はその姿に一瞬見惚れてしまったがそれと同じくらいの速さで我に返り、連絡を届けた。
「学校休んでたけど、具合はどうだ?」
「うん、もう大丈夫。明日は学校行けると思う。」
「そっか。それは良かった。」
僕はそう言うと、じゃあまた明日と言い、冬子の家を後にする。
翌日、教室に冬子の姿はなかった。その次の日も、またその次の日も、結局冬子が教室に姿を見せたのは1学期の終業式の日だった。
僕は冬子が学校へ来なかった間、美空からある話を聞いた。あの日記に書いてあったように、冬子の好きな人は僕だということを。僕の初恋の相手も僕のことを好きでいてくれていたらしい。まるで漫画のようだ。とも思ったのだが、正直あの日記を読んでいたからあまり驚きはなかった。まぁ実際はとても嬉しかったのだが。
美空は僕に告っちゃいなよと勧めてきた。もちろん僕にはそんな勇気なんてないし到底告白なんて無理だろうと思っていた。でも、いつも冬子と話すきっかけを作ってくれていたのは美空だったし、今回ばかりは自分で勇気を出そうと決めた。それにこの前連絡を届けに行った時に普通に話せたし。それもあってか変な自信が込み上げてきた。
そして終業式、教室へ上がってくると椅子に座っている冬子の姿がそこにあった。相変わらず綺麗な髪をしていて、キメ細やかな肌をしている。
僕は今日、人生で初めて恋をした相手に告白をする。相手は村上冬子だ。今年の春に転向してきて、その初日に僕が一目惚れした。彼女とは図書館にも行った。そこでは本棚向かいに目が合った。勉強も一緒にした。
僕は、優しくて、可愛くて、そんな君に恋をした。僕の今の気持ちを全て、君に届ける。
放課後、前もって終業式が終わったら教室に残っていてほしいと伝えていた。だから、教室には冬子と僕の二人しかいなかった。外は雨が降っている。その雨の音をかき消すように胸の鼓動が早くなる。
僕は、君に届ける。 ありったけの思いを。
「好きです。僕は、冬子のことが大好きです。」
一気に胸の鼓動が早まる。もう僕には雨の音どころか、自分の鼓動の音しか聞こえない。
冬子は少しだけ笑顔を見せて、こう言った。
「私も、真司が大好きです。」