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君が笑った日  作者: そらまる
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最初の寂しさ。

「あの時私は運命を感じました。あなたと目が合った瞬間、時が止まったような感覚でした。このままずっと止まった時の中にいたいと思いました。あなたはどう思っていたのかな。」





冬子と美空と図書館に行ったあの日から早くも3日が経った。

毎日同じ道を通って学校に向かう。唯一今までと違うのは、学校に行くのが楽しみになったことだ。

学校に行けば冬子に会える。冬子と話せる。

そう考えると、どんなにしんどくても、面倒くさくても、勝手にこの道を歩いている。

これが恋の力というやつか。と、そんなことを考えながら歩いているといつの間にか学校に着いていた。


昼休みになり、妙な違和感を感じた。が、その違和感はすぐになくなった。

美空がいない。

いつも冬子が座っている席の反対側のドアから俺を呼ぶ声が聞こえない。僕はそのことが少しばかり気になり、美空のクラスを覗きに行ってみた。が、そこには美空の姿はなかった。席にも座っていなかったし、きっと今日は何らかの理由で休んでいるんだと思った。

教室へ帰ると、僕の席のそばの窓から外を眺めている冬子の姿があった。時折吹く風に煽られ、黒髪のボブヘアーが揺れる。とてもきれいな髪だ。


―そういえば―


今まで冬子と話すきっかけを与えてくれていたのは美空だった。初めて挨拶をしたのも、図書館に行く約束を取り付けてくれたのも。あいつに感謝するのはあまり気が乗らないが、全部美空のおかげだから心の中で感謝の気持ちを伝えた。

「僕も頑張らなきゃ。」

小声で言ってみる。

少しずつ冬子に近づく。何て話しかければいいのか分からなかったが、とにかく今は頑張ってみる。そう心の中に決めた。

名前を読んでみる。

「ふ・・・」


キーーンコーーンカーーンコーーン


チャイムが鳴った。僕が口に出した「ふ」という言葉は僕の勇気と一緒に窓の外へ飛び出ていった。

せっかく勇気を出したのに。


その放課後、僕はまた冬子に話しかけようと試みる。

冬子は淡々と帰る用意をしている。僕も遅れを取らないように少し急いで用意をする。

だが、終わったころには冬子はもうバックを持って教室から出ようとしていた。

僕は呼び止めるように名前を呼ぶ。

「ふ・・・」

「おー、いたいた。村上今日日直だったよな。ちょっと手伝ってほしいことがあるからこのあと職員室まで来てくれ。悪いな。」

冬子は分かりましたと一言だけ言って、職員室へと向かって行った。

先生に邪魔されてしまった。僕の口から出た「ふ」という言葉は今度は行き場を失っていた。

僕は仕方なく諦めて、家へ帰ることにした。


帰り道、また小石を蹴りながら帰る。

なんであんなにタイミングが悪いんだろう。と考える。もしかしたら僕は知らず知らずの内に逃げていたのかもしれない。心の中で決まっていたとしても、まだ覚悟が決まっていなかったのかもしれない。そんなことさえも考える。まぁまた明日は話せるだろうと勝手に決めつけ、これ以上考えることをやめた。

それも逃げなのかもしれない。


ふと立ち止まって空を見上げる。今日は曇り空だ。今にも雨が降りそうな程に。

それはまるで、今の僕の心のようだった。


次の日もその次の日も、美空が学校に来てくれるようになったから冬子と話はできたが結局自分から話しかけることはできなかった。

基本的に冬子は自分の席で本を読んでいる。その雰囲気は、とても近寄りがたいものだった。

でも、冬子が読んでいた本は僕が図書館で手に取った本だった。それが素直に嬉しかった。

図書館に行ったあの日、結局あのあとお互いのおすすめの本を借りた。あの場で僕と冬子が目を合わしていたのは二人しか知らない。いわゆる、二人だけの秘密ってやつだ。

別にそれから変わったことはなかった。学校生活にも何の変化もなかった。

冬子は、あの時どんなことを思っていたのだろうか。





僕はまだ知らなかった。

何故冬子が僕の席のそばの窓から外を眺めていたのか。

その時何を考えていたのか。



その意味を知ったのは、まだ先のことである。

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