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君が笑った日  作者: そらまる
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最初の思い出。

「初めてあなたと会話をしました。実はあの時私はすごく緊張していたのあなたは気づいていたのかな。」




噛んでしまった。よろしくさえもちゃんと言えなかった。

「よ、よろしく…。」

村上冬子はどこか怯えた様子で返事をする。

「ご、ごめんね。こいつ、ちょっと空気読めないところあるからさ。」

「ちょっとー!!空気読めないって誰のことー!?」

必死に会話を続けようとする僕。

坂上冬子には僕と美空がふざけあっているように見えたのだろう。

少し笑っていた。

初めて見る笑った顔。それは、僕にとって何よりの幸せだった。

なんだかんだでその後もゆっくりだが会話は続いた。僕は一言一言口にする前に一旦頭の中で確認して慎重に言葉を選んで発した。


その後、新入生の入学式と始業式を終え、学校をあとにする。

帰り道、相変わらず通学用バックの中は空っぽだからとてつもなく軽い。でも、自分の胸が妙に重かった。


-僕は村上冬子に恋をした-


今振り返ってみると、一目惚れだった。

ドアを開けて教室に入ってきた君をずっと見つめていた。入学式中も、始業式中も、村上冬子のことばかり考えてしまい校歌もまともに歌えなかった。

あぁ…振り返ってみるととても恥ずかしい。

僕は道に転がっている小石を蹴りながら家に帰った。


次の朝、同じ道を通り学校に向かう。学校に着いたところで靴を履き替え、教室に向かっていると。

「しーんじっ!おはよー!!!」

「あぁ、おはよう。」

朝から甲高い声で挨拶をしてくる。美空だ。全く元気なやつだ。

「ねーねー、ふーちゃんと遊びに行かない!?やっぱり仲良くなるには一緒に遊ぶのが一番だよー。」

突然何の話だ。と言うか、ふーちゃんって誰なんだ。

「ふーちゃん?」

「転校生の!冬子ちゃん!」

「お前いつの間にあだ名で呼ぶ仲になったんだよ。」

「え?私が勝手に呼んでるだけだよー」

本当に呑気なやつだ。

「そうなのか。で?なんだっけ?」

「だーかーらー。遊びに行くんだよ!!」

「遊びに行く?どこに。」

「分かんないけど!!予定立てようよ!!」

僕は落ち着いたように振る舞う。が、内心はとても落ち着いていられるような話の内容ではない。

美空はただただ村上冬子と遊びに行きたいみたいだったが。僕にとっては好きな人と学校以外で会うということになる。

「図書館とかどう!?ほら、真司本読むの好きじゃん?ふーちゃんも昨日本読んでたから!」

「あぁ…いいんじゃないか?僕は別にいいけど。」

いいけど。なんて言いながら本当はとても行きたい。なんて言えなかった。

「じゃあ誘ってみる!また放課後教室行くねー。」

そう言って美空は早々と自分の教室へ向かった。僕は歩くペースを早めることもなく、ゆっくりと教室へ向かった。


先生からの話が終わり、さようならの声が教室中に響き渡る。さっさと帰っていく者、テニスのラケットを持って部活動に行く者、友達とだべっている者。様々だった。

もちろん村上冬子はどれにも当てはまらず、淡々と帰る用意をしていた。

するとそこに美空がやってくる。

「ふーちゃん!!!今週の土曜日空いてる??」

独り言を言っているみたいだ。村上冬子は自分に言われているなんて微塵も思っていない。当たり前だ。美空が勝手に呼んでいるだけだから。

「冬子ちゃん!」

村上冬子は美空の方を向いて何?というような顔をする。

「今週の土曜日空いてる?」

「土曜日…?空いてるけど…。」

「じゃあ一緒に図書館行かない?ほら、ふーちゃん昨日本読んでたし!本好きなのかなーって。」

いい加減、ふーちゃんと呼ぶのはやめた方がいいと思う。

「い、いいけど…。」

「ほんと!?やったぁ!あ、ちなみにね、あいつも一緒に行くの!」

と、僕の方を指さす。

僕は、こちらを向く村上冬子に少しだけニコッと笑顔を見せた。人に笑顔を見せるのは恥ずかしいものだと感じた。

「真司君も一緒に行くんだね…。」

名前を覚えていてくれた。こんな僕の名前を覚えていてくれたんだ。とても、とても嬉しかった。

でも僕は、照れ隠しのように返事をする。

「あ、僕も行くと嫌だったかな?」

「ち、ちがうっ。ただ…みんなで一緒に遊びに行くのが初めてだから…。嬉しくて。」

下を向きながら話す村上冬子。

可愛い。可愛すぎる。

「じゃあ決まりだね!また詳しいことはまた明日!バイバーイ!

と言って、美空は帰ってしまった。

僕も、特に用事はなかったがこれ以上この場にいると自分が保っていられない気がしたのでさっさと帰ってしまった。

後になって、あの時村上冬子にまた明日と言えばよかったなと、後悔した。


土曜日。

10時に図書館前に集合と言われたが、少し早めに来てしまった。15分くらいだろうか。

流石に誰も来てないだろうと思っていたが、そこには村上冬子の姿があった。集合時間の前にちゃんと来ておく。なんて礼儀正しい人なんだ。

僕もすぐに駆け寄り、おはようと一言挨拶をした。するとおはようと返事が返ってきた。

当たり前なのかもしれないが、好きな人と交わす挨拶はこんなに幸せなものなのかと感じた。

そんな余韻に浸っていると、美空もやってきた。

「おはよー…2人とも早いね…私なんてさっき起きたばっかりだよ。」

眠そうだ。昨日寝るのが遅かったのだろう。

「おはよう」

僕と村上冬子の声が揃った。

お互いがお互いの方を向いて、何秒か見つめあった。

なんて妄想は叶うはずもない。

眠そうにしていた美空が突然元気になって。

「よーしじゃあ図書館へレッツゴー!」

全くさっきまでのお前はどこに行ったんだ。


「冬子さんは、好きな本の種類どんなの?」

「冬子でいいよ…。うーんと、よく読むのはファンタジーかなぁ。」

「わ、分かった。ファンタジーかー。」

「真司君は?」

「僕も真司でいいよ。そうだな、僕はミステリーかな。」

「わ、分かった…。ミステリー…読んだこと…ない…。」

「そ、そっか。じゃあ僕がおすすめの本見つけてくるよ。」

「ほ、ほんと?ありがとう…。じゃあ私もおすすめの本見つけてくる。」

あぁ、なんて幸せなんだ。好きな人とこんなに話ができるんだ。幸せ以外の何物でもない。

僕は館内のあちらこちらを歩き回った。新しい本がずらりと並んでいたから、きっと最近建てられたんだろう。

ミステリーの本が置いてある本棚を見つけ、本を見渡す。

僕が一番好きな本が置いてあった。これを紹介してあげようと思い、本を手に取ろうとした。

すると…。

筒抜けになった本棚の向こうに、冬子が立っていた。冬子も丁度反対側の本を手に取っていた。


僕は、本と本の間から見える冬子と目を合わせた。

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