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ダウンタウン③

ダウンタウンから離れた場所にあるバーモルス地区。そこには帝国秘密機動部隊第4師団がある。


諜報部は今朝から慌ただしくオペレーターが情報を聞き集めていた。


第4師団が使っている建物は16階建てのビル、最上階にあった。その奥の会議室の中では4人の男が集まっていた。


この第4師団の直接的責任者である、ギュターボ大尉。彼はある言葉を待っていた。


「失礼します。大尉、裏切り者の居場所が見つかったとの事です」


緊張した面持ちの一隊員が今朝から集めていた情報の最終的内容を大尉に伝えた。


「もういい。ご苦労だった」


「はっ!失礼いたしました」


連絡事項を伝え終えた隊員が部屋から出ていく。


ふぅと深い息を吐くとギュターボ大尉は深々と椅子に座り背に持たれかかった。


「13年は長かった。あの日の後始末をやっとすることが出来る。ミーチェ博士。それと我らが裏切り者クレソン」


会議室にまた、静寂が戻る。


外では激しい横殴りの雨が降っているのか、部屋の窓ガラスには叩きつけられている雨の音が響く。薄暗い曇天の中で稲妻が光るが誰も微動だにしなかった。





外では雨が降っているらしい。マンホールや、通気口から水が滴り落ちている。


地下にあるダウンタウンでは天候はあまり関係ない。雨が降ろうが振らまいがいつでもジトジトしている。


今日は何でも屋カギューに行く途中で面白いことを聞いた。


何でも、地上世界とダウンタウンとを結ぶ唯一の手段である東広場にあるエレベーターの検閲が厳しくなり、誰も地上へ上がれなくなったのだ。


今までは出入りが自由で誰でも使うことが出来た。しかし、ここにきて衛兵隊がエレベーターの前に列をなし、検閲を始めたのだ。


それにより、東広場には人だかりが出来ていた。ダウンタウンと地上が行き来出来なくなるとダウンタウンの人々はなにも出来ない。


働きに行くことも、食べ物を得ることも出来ずみんな死んでしまう。


このまま、事実上の封鎖が続くとなると暴動が起きるのは目に見えている。


何故、国は今となってこのような処置に出たのだろうか。考えても答えはでない。


そんな今日一のニュース得て、俺はカギューの店に入った。


「おーい、おっちゃん生きてるか?」


いつものように呼んでみるが返事が帰ってこない。最近よくあるのだ。カギューがどこかに行っていることが。


俺は勝手にカギューの椅子に座りながら置いてあった機材をいじり始めた。


「全くあのトカゲのバケモノは何処をほっつき歩いてるのやら」


「誰が、トカゲのバケモノだって?」


椅子の後ろに恐ろしい目つきをしたバケモノが立っていた。


「お、おっちゃん。帰って来てたなら声くらいかけてよな。作業台を掃除してたんだから」


俺は咄嗟に言い訳をペラペラと話した。


「ふん、どうだかな」


カギューは椅子に座ると近くにあったタオルを手に取り汗を拭いた。最近はやたらと忙しそうである。何か大きな依頼でも入ったのだろうか。


「おっちゃん、最近忙しそうにしてるけど何か仕事してるのか?」


「いや、ちょっと私的な用で出かけておる」


俺は更に探りを入れた。


「知り合いから聞いたんだけどさ、西側の立ち入り禁止区域を出入りしてるところを見たって言ってるんだけど本当なのか?」


「そうか、そこまでバレていたのだな。年のせいなのか最近、俊敏性に欠けておるな」


「なぁなぁ、隠さないで教えてくれよ」


そこまで話したなら最後まで聞きたい。


「西側の立ち入り禁止区域はな、このシェルターに物資を送るために作られた、資材保管庫なのだよ。今はもうなにも置いてはいないんだが、そこの奥には壊れて使えなくなった大型のエレベーターがあるんじゃよ。それはかなり旧式のものでわしでも直せそうだったから最近はそこに行って修理をしておる」


立ち入り禁止区域にそんなものがあったなんて知らなかった。出入り口は東広場のエレベーターだけだとおもっていた。


「今日、東広場のエレベーターが使えなくなっているじゃろ、こんな時のための秘密の手段として使えるようにしておいた。今日でちょうど修理が終わった」


年寄りの考えることはすごいな。先をしっかりと読んで行動している。


「後で乗らせてくれよ、地上に出てみたい」


俺は最初に拾われた日以来、外の光を浴びていない。


「地上に出なくても幸せならそれでいいだろ、お前さんはただでさえ厄介なもんを抱えておるのじゃから」


カギューは目を細めながら言い、立ち上がると奥の部屋へと歩いてった。


「お前さん、昨日は成人の誕生日だったろう。本当は昨日渡そうと思っていたんだが来なかったからな、今日渡そう」


ガサゴソと部屋で何かを物色している音が聞こえてくる。ワクワクしながら待った。


部屋から戻ってきたカギューの手には何やら機械が握られていた。


「こいつをお前さんなやろう。わしが一から作った魔法対応機甲式ブラスターガンじゃ、魔法に関しては古い本を読んで作ったから使えるか分からんが希鉱石で撃つ分には問題無いはずじゃ」


カギューから渡されるとブラスターを食い入るように見た。まるで新しいおもちゃを貰った子供のように。


「こいつを俺にくれるのか?」


「もちろんだ、そいつはブラスターだけじゃないぞ。右側にあるスイッチを押してみなさい」


カギューに言われた通りスイッチを押した。


すると、ブラスターガンは音をたてて変形し30cm程のナイフへと変形した。


「そちらのナイフも魔法対応だ、しっかりと使いこなしてみよ」


「ありがとう、カギュー!!俺、こいつをしっかりと使って強くなるよ」


「そうか、ちょっと待ってなさい。まだ渡したいものがある」


作業台の上にあった布が被せてあった所に行くと布を取りこちらに持ってきた。


「これが、ブラスターガンを入れるホルスターとサブバッグだ、少し弾薬も入っている。て、こっちが希鉱石でコーティングしたレザージャケットだ。今は少しブカブカだがお前さんが成長したらちょうど良くなるだろう」


まるで、孫の成長を願っているような言い方でカギューは俺のことを見ている。


「大切に使うよ、ありがとう」


俺は満面の笑みでカギューにお礼をした。


「ちょっと廃材置き場に行ってくる。みんなに自慢してやるんだ」


「そうか、気を付けて行くんだぞ」


そう言って店を後にしようとした時、店の中に慌ただしい様子で入ってきた一人の男性がいた。


「はぁはぁ、やっぱりここにいたのか!」


それは父親の友達である男だった。男は必死な形相でこちらに近寄ってきて両肩を強く掴んだ。


「フィーロちゃん、落ち着いて聞くんだ。さっき東広場のエレベーターから帝国の機動隊がやって来た。彼らは直ぐ様広場の野次馬を制圧して東水路側に向かったんだ。クレソンは何かを予感して先回りして家に向かったんだ。しかし、奴らの方が早くて待ち伏せしてたそして……クレソンを射殺した」


えっ?言ってる意味が理解出来ない。射殺?何のことを言ってるんだ。


俺は今の置かれている状況を把握することが全く出来ない。


「お母様は!!お母様はどうしてるんですか!?」


咄嗟に母のことを尋ねた。


「君のお母さんはクレソンが殺されたことを知って、家に火を放ったそして、俺に1枚の紙を渡してフィーロに伝えてくれと言いそのままクレソンの遺体の場所で自殺したんだ」


なんという事だ。父さんと母さんが死んだ?何かの間違いだろ。いつも笑顔で俺のことを迎えてくれる。そんな2人が俺を置いて死ぬなんて。


「連中は君も探している。見つかれば多分殺されるだろう。ここもいずれバレてしまう。どこか安全な場所に逃げないと」


男の言葉がまるで頭に入って来ない。放心状態の俺はなにも考えることが出来なかった。ボーっとしているといきなり平手が自分の顔目掛けて飛んできた。


「なにをしておる。正気を持つんじゃ、お前さんは逃げないといけない。両親のことはその後に考えるのだ」


「で、でも、ぐすんっ、父様と母様が死んじゃうなんて……」


「お前さんは生きろ。復讐でもなんでも生きていなければ出来んじゃろが!!今から、わしがお前さんを守って地上まで出してやる」


カギューは部屋から剣を取り出して俺の手を掴んで外に引っ張り出した。


「ちょっと待ってくれ!!フィーロちゃん、これを君のお母さんが最後に君に渡してくれと言った紙だ。地上に出たらゆっくりと読むんだ。いいね?」


父さんの友人はそれを上着のポケットにしまうと店を出た。


「俺は広場に戻って少し時間稼ぎをしてくるよ。あんまり期待出来ないけどな」


そう言うと東広場の方へ向けて走り去っていった。


「わしらは西の立ち入り禁止区域を目指すぞ」


カギューと俺は喧騒としているダウンタウンの中をひっそりと走った。





西の立ち入り禁止区域はまだ、誰も近づいていないようだった。


トンネルを抜けるとそには広々とした空間が広がっており、いくつもの倉庫が乱立していた。


カギューはトンネルの扉を閉めてロックをかけると手を引っ張って奥に走った。そして、1番奥には修理してたというエレベーターがあった。


エレベーターは縦横ともに10m近くありかなり大きいものだった。


「わしはエレベーターの機動をしてくる。ここでまっておるのじゃぞ」


カギューは操縦室らしきところに入った。


少しすると、エンジンのような音が聞こえて、エレベーターが少し揺れた。そして、サイレンのような音がなり始めた。


その時、トンネル側から大きな破壊音が聞こえてきた。機動隊により扉が破壊されたようだ。もうすぐここまで到達してしまうだろう。


「早く、カギューも乗らないと!!」


俺は必死な声で叫ぶがカギューは後ろを振り向いてくれない。トンネルの方をずっと見ながら持っている剣に手をかけた。


「老いぼれの役目もここまでの用じゃな。散々、嫌味を言っておったがお前さんと過ごせた日々は実に楽しかった。大丈夫じゃ、きっとまた会えるはずじゃからな」


そう言うとカギューはエレベーターの隣にあったレバーを勢い良く下ろした。


するとモーターのような物が稼働してサイレンが鳴り響くとともに赤いランプが点火した。


「さらばじゃ」


エレベーターはものすごいスピードで上昇し私は立っていることが出来なかった。段々とカギューの姿が小さくなるのを見ていた。


カギューはトンネルに向けて走り出した。目の前から銃弾が飛んできていたが臆することなく走って行った。


「長年の恨みここで晴らさん!!」


それからカギューの声が聞こえることは無かった。



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