あいさつ
オレは加瀬恭子の実家に行くことになった。
そこへ、正式に結婚の申し込みにいくのだ。
あのベンチでの会話を、加瀬恭子は帰って両親に伝えた。
両親とも、オレに会うという。
静かな農村部の集落に加瀬恭子の実家はあった。
彼女の実家に向かう列車の中で思う。
『どうやら、ほんとにオレ、結婚するみたいだな』
不思議なのだ。自分が再婚するなんて思いもよらなかった。
そうこうしているうちに駅に着いた。
のどかな駅だ。旅番組に出てきそうだな。
駅前にハンバーガー屋もパチンコ屋も喫茶店も無い。
都会で生まれ育ったオレには不思議な光景だった。
そんな事を思っていると、無造作に駐停車してある車の1台から
ジーンズにジャージの加瀬恭子が降りてきた。
「ごめんなさい、遠かったでしょ?田舎で嫌になっちゃう」
『そんなこと言うもんじゃないさ。ふるさとなんだから』
「そうですね。 行きましょう」
彼女の運転する軽で走る。駅から10分ほどで家だそうだ。
『免許あったんだ?』
「田舎じゃ、車無いと、生活できないですよ
1人1台でもおかしくないです」
「へー 下駄がわりってやつか」
そんな会話をしているうちに信号のない十字路を曲がる。
通りに面して空地があった。ここか?
大きな敷地に都会では考えられないような日本家屋。
建坪だけで80はあるかな? 瞬時に計算してしまう。
納屋というのだろうか?大きな小屋?がいくつも庭にある。
どうやら車や農機具のガレージのようだ。
土が多い庭が不思議だ。
どこまでがこの家の敷地なんだろう?
いろいろ思いつつ車から降りる。
正面玄関向かって右。
部屋のカーテンが揺れた。
どうやらオレを見ている人がいる。
きっと両親だろう。
キャンキャンキャンキャン。
犬がいるんだ?
オレは何故か?動物にモテる。
犬でも猫でも、嫌われたことはない。
納屋の中で柴犬が、鎖が、ちぎれんばかりに飛び跳ねている。
「コジロー、うるさいよ~」
『小次郎っていうんだ?かわいいな』
オレはガマンできなくて相手になりにいく。
小次郎はオレを舐めて大喜びだ。
「よかった。良二さん、犬好きなんだ?
この子、気に入らない人には、吠えっぱなしなの」
『オレは犬にはモテるんだよ』
もっと相手になりたかったが、いつまでも遊んでいられない。
甘える声で呼ぶ小次郎を無視して玄関に向かう。
「さ、どうぞ」
胸に手を当てながら、前かがみでオレを招く。
加瀬恭子が緊張した時にやるくせだ。
『じゃ、失礼するよ』
無駄に広く大きな廊下の奥、客間らしい。
彼女が先回りして襖を開ける。
「お父さん、お母さん、小林さんよ」
ひきつった両親が床の間を背に並んでいた。
オレは落ち着いていた。
なんせ、結婚の挨拶
2回目だから。




