決断の時
オレは3部に戻ることになった。
辞令はいきなりだった。
人事の上山から先に連絡があり
藤木が泣いて復帰を懇願しているという。
もう3部は崩壊していたのだろう。
予定より3年ほど早く戻ることになった。
もちろん、藤木の三顧の礼に応えた形になった。
オレは営業第3部取締役部長小林良二として復帰した。
ニュータウンは、よほどの事が無い限りコケないだろう。
短い時間だったが、楽しい事業所だった。
あのマンションも出ることになった。
また小さなマンションを用意してもらった。
オレの代わりには2部の石井係長が大抜擢された。
どんな男なのか、知らないが、野上みたいなことは無いだろう。
野上はまた1部へ戻ったらしい。
オレの3部をめちゃめちゃにしやがって。
今更悔やんでもしかたがない。ここからリスタートだ。
見たことがない顔が何人か?いたが、いつものオフィスだった。
オレの左側に並ぶ経理に加瀬恭子がいない。
今、居たらな・・・でも、逆に居たらやりにくいか。
そんな事を思いながら、朝礼の場で久々に挨拶する。
『みんな。今までよく辛抱してくれました。
ありがとう。2年ほどブランクがある私ですが。
どうかよろしくお願いします』
オレは素直な気持ちでみんなに頭を下げた。
隣で松野が泣いている。 経理の橋本登喜子も泣いていた。
ほか、オレがかわいがっていた可愛い息子や娘も泣いていた。
おかしなものだ。家族を失くしたオレは、ここに家族がいた。
城の主が変わって、やはり変化はあった。
オレは営業の若手を労い、顧客の洗い直し。
自ら久々に外回り、なんとか2年のマイナスを補いたかった。
とにかく地道に若手と共に営業を行った。
忙しく働くことで、天涯孤独ではない。
この3部という家族がいる実感を持てた。
懸命の住宅フェア。
社員が一丸となってのイベント。
大盛況とは行かないまでも、手ごたえは感じた。
明らかに3部は息を吹き返したと言えよう。
そんな中、久々にリーチと会う。行きつけのクラブだ。
「お~ お疲れさん~ 無事復帰だな」
『ありがとう、思ったより早く戻れたよ』
ニュータウンの話から、離婚の話になった。
大変だったけど、オレ公私ともに再スタートだよ。
そんな話をリーチとした。
オレはこの25年来の友人に、加瀬恭子の話をするか?悩んだ。
リーチは認めてくれるだろうか?そのための離婚だったのか?
となるかなぁ・・・
仲がいいから言えないこともある。
彼女の話はどうしても言えなかった。
もし結婚したら、事後報告にしておこう。
なんとなく後味悪く、クラブをあとにする。
新しいマンションに戻ると、加瀬恭子からメールが来ていた。
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おかえりなさい。
お疲れさまでした。
復帰した3部はどうですか?みなさんお元気ですか?
私も戻りたいな。
良二さんの元へ。
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答えを出す時が来ていた。
ほおっておけない。




