家庭訪問
公園のベンチで話しは続いた。
こんなことならホテル用意すればよかったな。
ベンチに座らせたまま、かわいそうな事をした。
すぐお別れのつもりだったから。
そうしてるうちに彼女が、トイレに行きたくなった。
行ってみたが、小さなトイレで使用禁止だった。
とにかく速足で駅に戻る。
駅前の小さな喫茶店に入って用を足した。
近所に住んでいるが、ここに入るのは初めてだ。
改めて少し話をする。そこで何気に言ってしまった。
『家に帰ればよかったな』
「良二さんのマンションどこ?」
『そこ、前の通りあるだろ?曲がってすぐだよ』
「家は行ったらだめ?」
『そうだよなあ・・・』
前回、ホテルでデートした時は
人目もあるから、家はダメだと言ったが
今となってはオレは離婚してるんだし、構わない。
「ちょっとだけ、ダメ?」
『ん~ 見られて困るものはないんだけどなあ
やっぱ汚いからなあ・・・』
「行ってはいけない理由は、汚いから。だけでしょ?
じゃあいいじゃん。ね?ちょっとだけ、5分で帰るから!」
田舎の喫茶店で客はまばら。静かな店内で会話は筒抜けだ。
オレが誰かは知られてはいないが、ここでは会話したくない。
それに一度言い出したら、聞かない子だ。しかたない。
『じゃあ、ほんと、ちょっとだけね』
「やったー!行きましょう」
歩いて3分ほどだ。オレの住んでいるマンションについた。
オートロックの暗証番号をタッチし、ドアを開錠する。
平日の昼間、別に悪い事はしていないが、静かな廊下をコソコソ歩く。
部屋は3F 302号室。ドアを開ける。臭くないかな?そんな心配もする。
『ほんと、汚いぞ。嫌いにならないでくれよ』
「キレイな部屋だったら、愛人が居るってことですからね!」
オレの背中で、嬉しそうに言うと彼女は低めのパンプスを脱いだ。
「あら?案外キレイじゃないですか?」
2DKのマンション。和室の4畳半はタンスなど物置部屋。
6畳のフローリングにはベッドとテーブル。
今日はゴミ出しの日だったので、朝軽く片付けていた。
あまり自炊をしない台所も、それほど汚れてもいなかった。
「あれあれ~?これは女が居るな?」
『バカ言ってんじゃないよ。居たら部屋には入れないさ』
「ですよね~」
そういうと、急にオレに抱きついてきた。
オイオイ、いきなりなんだよ?
長い間、女に触れていないオレは、ビクンとなった。
久しぶりに加瀬恭子の感触が蘇る。
ここはオレのマンションだ。なんの準備も無い。
ただ、深いキスと抱擁を交わす。
やっぱりオレはこの女と別れることができないな。
加瀬恭子が帰った。
もちろん次に会う約束を交わして。
家に戻るとテーブルの上にイヤリングが。
あわててメールする
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あ、気づいてくれたんだ!
嬉しい!1個置いておいたのは、わざとです!
今度会う時、持ってきてください。
最愛の人に買ってもらった物です。
大事にしてくださいね。
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急な家庭訪問の忘れ物。
ふいに耳につけてみたくなった。




