元通り
自分のモノマネをされて笑ってしまった。
そうだった。
引っ込み思案な加瀬恭子はいつも自分を否定していた。
背の高さがイヤでいつも自虐ネタばかり。
何度もそれを叱ったな。
でもよく考えたらオレも同じ状態じゃないか?
年齢とバツ1を自分自身で許せなくて自虐のオンパレードだ。
『いままで悪かったな』
「え?」
『自分を否定しまくってるじゃん』
「気づいてもらえました?」
『ああ、いつの間にやら立場が逆転してるな』
「ウフフ。私もいつもダメダメーって言ってましたもんね」
『なんか、君のお母さんに救われた気がするよ』
「母が言ってました」
「良二さん、イイ人だと思う。年齢関係ないわよ。
あなたをデカいとバカにしない人が結婚相手。
あなたの容姿を愛してくれる人。って」
会ったことはない加瀬恭子の母。
オレはその人に認められた。
でもお父さんはどうなんだろう?
『ねえ、お父さんにはオレの事、言ってないのかい?』
「母が伝えましたよ。ちゃんと」
『お父さんは、なんておっしゃってたんだい?』
「ん~ ちょっと、それは言えないなあ~」
加瀬恭子はニヤニヤしながら言葉を濁した。
気になってしかたがないじゃないか?
顔からして、否定ではないような気はしたが
あまり嬉しくないなあ的な意見なのかな?
『なんだよ?聞かせてくれよ。やっぱ、じじいだってかい?』
「いえ、年齢どうこうじゃないですよ。でもこれ言うと
父の人格疑われないか、心配ですから・・・」
ニヤニヤしたまま、いたずらっ子はこっちを見ている。
『聞かせてくれよ。もし君と結婚したら義理のお父さんなんだぜ』
「ですよね~ でも、内緒にしてくださいよ」
「えっと、父は・・・」
「金持ってるんだろうな?って・・・・」
『え~?金あればOKだってか?』
「いや、そういうことではなくて、お金の苦労がないといいなって・・・」
オレはホッとして笑ってしまった。
買った家は売ってしまったが、父の残した家はある。
仕事もあと10年はできるだろうし、退職後も、なにかしら仕事はある。
すこしの貯えと、株もけっこうある、一応、金の苦労はない。
はずなんだけど・・・
『お父さん、偉いな』
「え~ゲスい事ないですか?お金の事聞くなんて」
『何言ってんだい?金がやっぱし大事だよ』
『やっぱある程度ないと。愛する人を守れない、金は大事だ』
「そうですよね、お金だけでもダメですよね、愛がないと」
『その言葉、胸に突き刺さるなあ~』
オレはわざと倒れるふりをしながら言った。
「あ~違います、違いますっ そんな意味じゃないもん~」
そう言いながら、オレの腕にしがみつく。
長い髪が美しく揺れる。
またイヤリングが見えた。
2人が元通りになった気がした。




