恋人きどり
これが最後のデートになるかもしれない。
そう思いつつ、加瀬恭子にメールする。
会うのはどこにしよう?
オレはちょうど来月、本社へ行くけど。
いつがいい?と訊ねた。
彼女はなるべく早く会いたいという。
私が良二さんの元へ行きます、構いませんか?
休めるので、なんなら、月曜の昼間でもいいという。
それはオレの定休日だった。
会うのは普通の公園にした。
駅前になんの変哲もない公園がある。
ホテルを取ると、またオレは揺らいでしまう。
ただ、話すだけだ。デートでもなんでもない。会うだけ。
月曜日、駅に彼女を迎えに行く。
1時すぎの特急がホームに滑り込む。
何カ月ぶりだろう。
肩まで髪を伸ばした美しい加瀬恭子が改札を抜ける。
ほんとうにきれいになったな。
彼ができたら、こんなに変わるのかな?
そんな事を思いつつ彼女を眺める。
どこで話そう?帰りの切符は買ったのか?
急なことでホテル取れなかったんだ。
下手な言い訳をしながら、近くの公園に行こうと促す。
公園まで歩いて10分ほど。
大きな神社に隣接した公園。
静か。
どこで話す?
きれいな池の周りを歩きながら考える
小高い丘のようになった所にベンチがある。
元気だったかい?
ええ。オレはきれいになったと言いたかったが
そういうセリフさえ、彼女にとっては邪魔になるんじゃないか?
やっとこさ、ベンチに腰掛けて、ため息をついた。
「どうしたんですか?」
『久々に会って、なんか緊張してさ。ごめんごめん』
オレの笑いがひきつっていたのか?彼女は悲しそうな顔をした。
もう最後なんだ、彼女が悲しいかどうかどうでもいい。
いっそ、オレを大嫌いになって帰ってくれ。
そう思いつつ話す。きっとこの感情は彼女に伝わったはずだ。
『どうしたんだよ?急に、オレに重大発表でもあるのかい?』
頭に結婚報告が浮かぶ。そうだろう?
仲人してやりたいけどできなくなったな。
元会社の上司で式にでてやってもいいけど、独りだし、はずいな。
そんなことを考えながら池に浮かぶ名前の解らない鳥の姿を目で追う。
「良二さん、彼女できましたか?」
『おお、まあ気になる子はいるけど・・・』
「ウソだー」
『どうしてだよ?』
「もし、本当なら私には会ってくれないはずですよ」
言い当てられて、ドキっとした。この子には負けそうだ。
オレがまだ彼女を愛していながら、葛藤していることも
わかっているのかもしれないな。
「えへへ、よくわかったなあと思うでしょ?
私、まだ良二さんの彼女きどりですから」
『きどりって、何言ってんだい』
一言一言に焦るなあ。周りに誰も居ないからいいけど。
こんなことならホテルのほうがよかったかな・・・・




