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難破船

オレが異動して1年が過ぎた。


仕事は順調。

ニュータウンの受注はもうすぐ半分近くになる。

近隣にも大手スーパー、その他の商業施設がオープン。

街は電鉄会社の思惑通り急速に発展した。

近隣の発展と共にうちもおこぼれにあずかる。

5年はかかると思われていたものが3年で完売しそうだ。


忙しさで。加瀬恭子とはメールだけの連絡になった。

会話が無いのも寂しかったが、忙しさに追われ一か月が過ぎた。


そんな中、松野からメールがきた。


おひさしぶりです。の件名にイヤな予感がした。

開いてみると、3部の状況で苦しんでいるという内容。

松野とは年末から連絡取ってなかった。


オレは慌てて電話をした。


「もしもし?、松野です。

   いままで黙っていたんですけど・・・」


その声はいつもの松野ではなかった。


3部の状況は末期的だった。

オレが異動してから売り上げが上がらなかったそうだ。

その時野上がやったのは自らが動くことではなく

戦犯探しと責任転嫁、そして、苛立ちを吐き出すことだけだった。


営業をののしる。役職をののしる。 

そのうち、営業が何人かが辞める。

正直、昨日今日の新人が辞めても差し支えないが

主力が愛想を尽かして辞めた場合は最悪だ。


手薄になった営業、特にベテランに無理がかかる。

リフォーム部門で、客のフォローがおろそかになった。

クレーム処理に追われ、少ない人数にしわ寄せがくる。


そのうち春のイベントが企画される。

4部から何人か、応援を頼み、とにかく人手だけは確保。

顧客へのアプローチも無いまま、春の住宅フェア。

いつもの盛況ぶりがウソのように会場はガラガラ。


鳴り物入りで来た野上も、ついに馬脚を露した。

暴力を振るうことはしなかったが

連日、役職を捕まえては怒鳴り散らす。

役職全員がストレスでダウン寸前。

冗談抜きで、部の存続の危機だという。


良くないとは聞いていたが、そこまでひどいとは・・・

オレのせいではないが、なんとなく責任を感じた。


そんな中、最後に松野が言った。


「ああ、それから、加瀬君、彼女も今月一杯で退職だそうです」


ええ?オレは声が出そうになった。

辞める?そんな話は聞いていなかった。

どうしたんだろう?なにかあったのか?

オレはさりげなく聞いてみた。


『え?加瀬君、寿退社なのか?』


「いや、違うみたいですよ。経理で飲みに行ったとき

            カラオケで泣いたらしいですから」


『カラオケで泣いてた?』


「ええ、〈難破船〉歌って泣いてた。って言いますから。

       こりゃ、誰かに失恋して退社するんだ?って噂です」



オレは聞き流すふりをして松野と話を続けた。


どうすることもできないが、また話を聞かせてくれ。

ありがとうございました。聞いてもらえて少し楽になりました。

がんばってな。無理するなよ。 そんな慰めで電話が終わる。


電話を切ったオレは、加瀬恭子で頭が一杯だった。




難破船・・・誰の歌だろう?




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