ギャップ萌え
住宅メーカーの営業は相撲と似ている。
勝てばドンドン番付は上がり、給料もあがる。
売れなければ、負け、降格、そして廃業。すなわち退社だ。
したがって、営業の離職率は高い。1か月もたない奴もいる。
人事からの指導があるので、離職率を減らす努力はしている。
個人の適性も見るし、合わないと思えば配置換えもする。
オレは加瀬恭子がちゃんと務まるか、心配だった。
女子事務員の中でうまくやっていけるか?
事務方は、個人のスキルではなく、人間関係で辞めていく場合が多い。
西田のあとを埋めるための採用だ。辞められては困る。
経理の川本秀明に、それとなく聞いてみる。
川本係長。営業ではイマイチだったが、経理に移って開花した男。
部下の能力を見抜く力、伸ばす力はピカイチだと思う。
「あ~加瀬ですか?研修期間いらないくらいですね。
なんせ経験者ですから、それとPCスキル高いので、即戦力です」
それを聞いてオレは安心した。
他の社員からも、加瀬の評判はよかった。
きっと仕事の呑み込みの早さプラス、人間性もいいのだろう。
特に橋本登喜子に気に入られたのが大きい。彼女は46歳、女子事務方のドン。
彼女の逆鱗に触れ、退職した女子は多いと聞く。(あくまで噂だが)
『おトキさん、新しい子どう?使えそう?』
「加瀬さんね、面白い子ですね」
『面白い?』
思わず聞き返す。
「見た目と中身が違うんですよ。冷たい感じでしょ?
でもお笑いキャラです。課長の女版みたい。」
『え~ほんとかよ? 松野に似てるのか?』
「ええ。面白い子です、仕事もできますし。
面白いだけの役立たずは困りますけどね」
人は見かけによらない。
初めの挨拶の時は冷淡に見えた。
実際に話をすると、明るくて楽しい女性のようだ。
ある日、書類を持ってきた彼女に声をかけてみた。
『加瀬くん、そろそろ一か月だけど、少しは慣れたかい?』
「あ、はい。皆さんに良くしていただいて、本当に感謝しています」
『そうか?それを聞いて安心したよ、
なんせ、初めて会った時は、鬼の形相だったからな』
「鬼の形相って~、あれは緊張してたからですよ。
体格は鬼クラスですけど」
すましていれば、地味。冷たい印象だ。
でも話をすると明るく、人当たりがいい。
笑うと、何とも言えないかわいい顔になる。
しゃべりが上手い。営業でもいけそうだ。
〈ギャップ萌え〉っていうやつかな。
オレはこの子が気に入ったみたいだ・・・