説得
彼女が泣くのは何度も見ている。
女の涙は武器 というのは本当だな。
やっぱり泣かれると、どうしていいのかわからない。
泣かないで、と言っても収まるもんじゃないし
オレとしては静かに待つしかなかった。
『オレね、本当に考えてるんだよ』
静かに黒い画面に語りかける。
たしかに2人で過ごす時間は最高だ。
話も何もかも相性も合うと思う。
でもそれは、快楽の時間であり夢の時間。
現実に引き戻され、また麻薬のように夢見る時間。
いつまでも続くものではない。
終わりが来た時、残るのは思い出だけだ。
心の支えとして君の傍には居たいけど
本当に支えになるのは現実のパートナーだ。
オレはそうなれないんだよ と・・・・
泣き声だけが聞こえる。
今回の婚活、勝負すべきだ。
何度かデートしているということは
大嫌いではないのだろう?
相手も気に入ってくれてる。逃げる必要はない。
経済的にもいけるだろう? 3男だったな?条件もいい。
オレは彼女の返事を待たずに力説した。
スカイプの向こうで聞いてくれるだけでいい。
説得は続く。
未来が無い恋愛はいつか?見切りをつけないと。
いつか?言ってただろう?
イイ男が現れたらオレとはさようならだと。
それが今だとオレは思っている。
結婚する気があるのなら、考えよう。
一生独りでいいというのなら、話は別だけど。
ご両親も待っておいでだと思う。
「良二さん・・・」
やっと声が聞こえた。
もう泣いてはいなかった。
「なにかあったの?」
オレは飛び上がった。
カメラを消していて本当によかった。
なぜ?急にそんな質問をするんだ?
オレは真面目に真剣に話しているのに憤慨だ。
という体で自分の動揺を隠した。
「なんとなく・・・なにかあったのかな?と思って」
『オレが懸命に話してるからかい?』
「それもそうなんだけど、なんとなく・・・」
『何となく何なんだ?』
「上手く言えないんだけど、なにかあったのかな?と」
女の勘は恐ろしいなあと思いつつ、動揺を隠す。
『話をすり替えるんじゃないよ。真剣に未来の話なんだから』
「ええ、わかってます。 こうして良二さんに甘えるのもダメなことも」
「でも、怖いの、その人がどうこうより。結婚できるのか?どうか」
『大丈夫さ。男のオレが見ていて思う。君は適合者だよ』
『長い間恋愛してなかった。って言ってただろう?
だから自分に自信がないだけだよ』
「ええ、そうかも」
『本当にマジで1歩、踏み出しなよ。自分でパーティに出向いて
がんばって婚活してたんだろ?』
『煮え切らない態度は、その公務員を弄ぶことにならないか?』
婚活は自分の意志で動いたことだ。
だからこそこのセリフは彼女に響いた。
そう。自らが動いたことで、事態は動き出した。
「そうですよ。 ね・・・・」
この言い方は彼女が納得した時のものだ。
わかってくれた。
前向きに考えてみる。
いつまでも良二さんに迷惑はかけられない。
安心していただくことがご恩返しになる。
そこまでのセリフをもらうのに相当な時間がかかった。
離婚協議より大変だった。




