表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

さようなら

オレはこの沈黙が嫌で、妻に尋ねた。


『それはそうと、夕飯どうするんだ?作れないだろう』


「具合悪いから簡単なものしか出来ないけど

              パスタでいい?すぐ作るから」


おいおい。まだ言うんだ?すごいなあ。

そりゃ、これだけ言われたら具合も悪くなるか。


『いや、もういいよ。オレ帰るわ』


オレはそういうと、PCを開いて電車の時刻を調べた。


「帰るって?どこに?」


妻はさすがに驚いたようだ。


『お前もここまで言われてさ、もうイヤだろう?

          このあと1週間、オレと暮らしていけるか?』


「子どもたちも正月帰ってくるでしょう?」


よし。まだ時間は間に合う。8時台のに乗れば11時には着くな。

オレはPCを閉じて、帰り支度のため部屋へいく。

妻は予想どおり、オレのあとも追わない。

しばらくして、またスーツに着替えてリビングへ戻る。


駅までタクシーを呼んでくれと頼んだ。


「ほんとに行くの?」


『おいおい、引き留める気ないのに何言ってんだ?』


『そんな質問して、考え直されても困るだろ?』


こいつはそこまで言うんだ・・・と思ったのか。


もう反論はしてこなかった。


タクシーを待つ時間が長い。

年末のことだ。混んでいるんだろう?

夕飯どこで食べようかな?と考えていると妻が訊ねた。



「これから、どうするの?」


『これから?帰って冬休み過ごして、またがんばるよ』


「私、どうしたらいいの?」


『今のままでいいんじゃない?ガマンできるんなら?』


『オレの稼ぎで暮らすが嫌になった時はメールちょうだい』


オレは自分の顔を指さしながら言った。


「虚しいよね、こんな生活」


『まだ足りないってか?すいませんねえ~

       役員になればもう少し上がりますけど?』


「まだ言うの?もう責めないでよ」


また泣きだした。どこまで本当なんだろう?


『1500あればイイって言ってたよね?500だったら死んじゃうんだっけ?』


「悪かったわ、謝ってるじゃない?」


『良いんじゃない?それはお前の価値観なんだし。 

           その基準にそぐわない男に嫁いだ不幸を嘆きな』


「もう帰ってこないの?」


『金はちゃんと振り込まれると思うよ。オレが退職するまで』


「そんな事言ってないってっ!」


泣きながら地団太を軽く踏む。

へぇーそんな態度もとるんだ?

その予想外の態度に笑いそうになった時。

チャイムだ。インターフォンから運転手の声。


「小林さん。お待たせいたしました」



オレは、少し待ってと声をかけ、キャリーを握る。


『じゃあ、またね。何かあったら連絡ください。よいお年を』


「具合悪くなかったら送るんだけど、ごめんなさいね」


まだ言ってる。本当に具合悪いんだ?

オレに揚げ足取られるのが怖いのか?

一貫して具合悪いと言い切る。

偉いなあ。 褒めてやりたいよ。


玄関のドアを開けて、思わず笑いが出た。

その笑いを自分にだ、と勘違いした運転手が

頭を下げてキャリーを受け取った。


さようなら。


本当にそうしたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ