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最悪のお誘い

深夜の攻防は続く。

こんなに話をしたのは何年ぶりだろう?

オレはこのケンカが心から面白かった。


やり込めるのが楽しいのではなく

今まで口に出せなかったことを語るのが痛快だった。


「一体何が言いたいのよ?私にどうしろというの?」


『言ってるだろう?いつも通りに過ごしてくれよ。キモいから』


『異動から帰って、少しは労わる振りでもしなきゃ。と思ったのか?

            オレに話かけ過ぎなんだよね。変だし、実に』


「だから、私はほんとにこの前悪かったと思ったのよ。

         だから気使って、話しかけてたんじゃないの?」

             

「それを一々、違和感だとかガーガー言われなきゃならないの?」


「悪かったと思ったらダメなわけ?ええっ?」


『えらいキレるじゃん。まあ、そのほうがお前には似合ってるよ』


『じゃあ、これからは普通の夫婦のように仲良く過ごすわけね?』


「元々、仲悪くなかったじゃん?」


『そうね。結婚した当初はね。でも今は、ただ暮らしてるだけだって』


また妻の顔つきが変わる。

どうやら、ただ暮らしているだけ。というキーワードが鬼門らしい?

仲睦まじい夫婦を演じたいのか?オレにはキレる意図がわからなかった。


ドラマだったら、今、CMだろうな?と思うような沈黙の中オレは尋ねた。


『じゃあオレたち夫婦の関係は冷めてもいないのね?』


「覚めてるとしたらあなたのほうじゃないの?」


さも、この事態を巻き起こしたのはお前だ。というように

いつもの上から目線で物を言う。こんなのに負けるわけがない。


『あ、そう?オレのせいで?』


『じゃあオレがお前を愛してないからってことね?』


「あなたの愛が無いから、そう感じるんじゃないの?」


一瞬、加瀬恭子が浮かんだ。

そうさ、愛なんか無い。でもそれは10年も前からだ。

レスどころか、今さっき手を握ったのも何年ぶりか?のオレ達だ。

お互い愛なんかないだろう?それをオレだけのせいにしやがって。

オレは少なくとも妻に愛はあった。正直、毎晩抱きたかった。


『そうか?オレに愛はあるよ』


まるで、親が子どものウソを見透かしてバカにしているような顔で見つめる。

オレはその冷酷な顔に言った。


『ねえ?明日の夜でいいや。久しぶりにHしようぜ』


「!!!!」


『なに驚いてるんだよ?愛がある夫婦が久々に会ったんだ。

         オレはお前を抱きたいよ。お前もそうだろう?』


「・・・・・・」


『それとも、ちょうど運悪く女の子の日か?

            それなら手か口でいいよ』


「・・・・・・」


『じゃあ、そういうことで。明日ね!

     もう寝よう。2時じゃん。じゃ、おやすみ』



オレは妻の返事も待たずに立ち上がり、リビングを出た。


こんな提案されるとは、思いもよらなかっただろうな。


最悪のお誘いだもんな。


さあ、どうする?


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