深夜の攻防
妻はオレ達夫婦がちゃんと成立していると言い張る。
そんなバカな。これが夫婦かよ?
ただ暮らしているだけ。
オレの稼ぎは、お前の家事代だ。
お前は金があるからオレの傍にいるだけ。
妻という仕事をこなしているだけだ。
頑として、違うと言い張る妻。
お前のその意固地な態度、どっから来るんだ?
妻の資格なし。と指摘されたことへの怒りなのか。
年のわりに美しい顔は般若の面そのものだった。
『そんなに夫婦だというなら、実験してみるか?』
「なによ?実験って・・・・」
般若は不安そうによけいに眉間にしわを寄せた。
オレは立ち上がり、妻の傍へ行く。
不安げにオレを見上げる奴の傍にしゃがみこんで
ふいに、その右手を握った。
「!!!」
驚いた拍子に軽く声が聞こえたような気がした。
ほんの数センチだが身体を引いて、オレの手を振りほどく。
『驚いたよな?痴漢されてさ』
「何よ急に?びっくりするじゃない?」
『そうか?じゃあ、手つなごう。手出せよ』
あきらかに不安な顔をしてオレを見つめる。
『ね?イヤだろ?触れるのさえも?』
オレは薄ら笑いを浮かべながら尋ねた。
「イヤじゃないわよ、驚いただけよ。手くらい繋ぐわよ」
『そりゃそうだよな?手取り50万もありゃあ、それくらいするよな?』
不安げな顔が一変、鬼に変わる。
「なにが言いたいのよっ?」
『オレ達の愛なんて、そんなもんなんだよ』
夫婦なの接近されただけで不安になる。
手を握られて、飛び上がるほど嫌がられている現状。
これくらいの反応になることは、想像していたから腹は立たない。
でも悲しい話だな。箸の上げ下ろしも気に食わない とはこのことだ。
一度溝ができたら、それを修復するのは並大抵な努力では無理。
うちはもうそういう状況なのさ。だから暮らしてるだけ
『お前は給料で、妻という仕事をしているだけなのさ』
オレは妻の目の前で静かに語りかけた。
いつの間にやら、涙ぐんでいる。
図星なだけに腹が立つのか?反論でもあるのか?
おかしな話だ。こっちが泣きたい。
「そんなことないわ。私はあなたへ愛があるわよ」
『え~????』
オレはわざと大声を上げ目を大きく見開いた。
その声に益々にらみ返してくる。
『愛って、あれだろ?お前がやってる家事手伝いだろ?』
「愛がなきゃできないわよ」
『できるさ。金さえあれば』
「お金の話しかしないのね?あなたと言う人は!」
『お前、金ぬきでオレと接したことないだろう?』
『もし、オレがクビにでもなって一文無しになったら
お前、オレを支える気あるかい?』
「あるわよ、あなたを支えるわよ」
『へ~ 異動が決まった時、《行かない》と即答したお宅がねえ?』
『心にもない事、言うんじゃないよ』
オレに応酬話法で勝てるはずないだろう?
妻は一言も発することなく。
オレを見つめていた。




