後ろの正面だあれ?
オレは慌てて返信する。
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原田と藤木のお相手は終わったよ。
こんなことなら会いたかったなあ(涙)
今タクシーで駅前に向かってるんだ。
今日はWホテルで泊まるから。
家?火事で燃えちゃいました(笑)
オレも恭子ちゃんと距離が縮まったから嬉しいよ!
ではおやすみなさい!
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返信メールはすぐだった。
今お独りですか?電話していいですか?
オレは彼女との会話を運転手に聞かれるのがイヤだった。
タクシーを降りたら電話するよとメールした。
西口に着く。
タクシー代を払う。チケットでなくてよかった。
チケットなら降車場を記録される。家と反対の駅前に行くのもおかしいし
まだ11時前なのだが、こんな時間に○○県行きの電車はない。
オレはわざと駅で降りて、ホテルまで歩くつもりだった。
そしてその道中、彼女に電話する。
『あーごめんごめん、今タクシー降りたよ』
そう言いつつ、のどが渇いた。自販機でコーヒーを買いベンチに座る。
「もう~ 家燃えてないでしょ~ めちゃめちゃ言うんだから~」
かわいいなあ。この声聞くだけでオレはメロメロだ。
彼女はオレが家に帰らない事に驚いたようだ。
まさか?ここまで夫婦関係がひどいとは思わなかったのだろう。
オレはせっかく単身赴任で幸せなのに、あいつの顔を見るのはイヤだ。
いつものホテルに入ることにしたのだ。ゆっくり過ごしたい。
「良二さん、今、駅前ですか?駅前のどこですか?」
『うん、wホテルにいくから。どうして?』
「ホテルは、あのスターWホテルですよね?」
『そうだよ、いつもの。なんだよ?あ!そうか?疑ってるのか?
独りだよ~ ちきしょ~ 会いたいねえ?』
「会ってくれるのぉ?」
甘えたような言い方で尋ねる。当たり前だろう?
お泊りできるなら、追加料金いくらでも払う。
「今、本当に駅前ですか?」
『西出口のロータリーだよ。ほら、前、待ち合わせしたじゃん。
宝くじ売り場の自販機のとこ』
「あ~やっぱり、あそこですね。はいはい」
『なにがハイハイだよ』
「どこでもドアでそこへ行っていいですか?」
『好きにしろよ。待ってるよ』
「そこから動いたらダメですよ」
『え?』
思わず立ち上がり缶を捨て歩道に出た。
「後ろの正面、だあれ?」
『え?』
「だから、後ろの正面だあれ」
何だよ後ろの正面って?
少しイラっとしつつ振り返る。
『え? ウソ!なんで居るんだよ?』
オレに返事を返さず、加瀬恭子は電話を切った。




