会いたかったな
ここに座って1時間少し。
オレは帰るきっかけを探していた。
ベタな展開だが、なにげに携帯を見る。
メール1通。 10時7分? さっきじゃないか!
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お疲れさまです。
今日は接待でしたね?まだ最中かしら?ごめんなさい。
大変だったと思います。
どうかゆっくり身体を休めてください。
久々のご自宅ですものね。
良二さんと、距離が近くなったこと。
うれしく思いながら寝ることにします。
恭子
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おいおい、まるで筋書き通りだ。
でもさすがに加瀬恭子のからのメールとは思わなかった。
携帯を閉じ、急に帰ると告げる。ママは一瞬驚いた。
でもさすがだ。携帯に関しては一切詮索しない。
ママは、オレのほうに座り直した。
「小林さま。どうかまたお越しくださいませんか?
これは営業ではなく、心からのお願いです」
『ママがもっとつまんない女なら来るかもね?』
「小林さまが気まぐれを起こされる事、祈りますわ」
ママはそういうとスイッチを切り替えて原田と藤木に声をかけた。
ボブの女が席を外す。オレは2人の横へ立ち、気を付けをする。
「なんだよ~ ママにフラれたのかあ?まだいいだろ~?」
原田は女が席を立ったので機嫌が悪い。
スーツの裾ひっぱるんじゃねえよ。これけっこうイイやつなんだ。
そう思いつつ笑顔で頭を下げながら言った。
『いえいえ、十分頂きました。もうこれ以上は緊張で身体がもちませんよ』
「緊張したってか? 固くなったんだろ? ママに介抱してもらうんだよ~」
そう言って原田はオレの股間を触る。
おいおい、付け替えたバッジが泣くぞ。オレは思わず笑った。
『これからもニュータウンはおまかせください。今日はごちそうになりました』
深々と頭をさげ、オレの営業時間は終わる。
『じゃ、2人は置いていきますね。失礼します』
ママはオレに深々と頭を下げた。
エレベーターにはママと愛ちゃんの2人が乗って来た。
「小林さま、本当にまたお会いしたいですわ。ねえ、愛ちゃん?」
愛ちゃんはマジで照れて、うつむき、うろたえている。
これが三味線だったらよけいにおもしろいな。
『また相手してやってもいい。と思っていただいて、感謝しています。
勉強になりました、楽しかったです』
「こんな世界ですから、信じて頂けないのは重々承知ですが。
私ども、本音で話すこともあるんですよ」
『ええ。わかってますよ。そこまでバカではないので』
1Fに着いた。2人に見送られタクシーに乗る。
ほんと、奴らに連れてこられて、こんなに楽しい夜になるとは思わなかった。
時間はまだ10時半。今からオレはいつもの外資系ホテルに泊まる。
家には帰らない。この凱旋帰国は妻には伝えていないのだ。
タクシーに乗り込み、あわててメールを返信する。
会いたかったな。




