怖い女
雅楽には原田常務、藤木専務2人が居た。
あれからもうすぐ1年だ。同じメンツを見て思う。
前回はここじゃなかったよな?今回は坪庭のない部屋だ。
目の前の2人はまるで取引先の営業マンようだっだ。
「小林君~ 今、君の噂で持ち切りだよ~」
『どんな噂ですか?』
「小林君は、どんな場面でも逆転ホームランだ。ってね。
社員の力を引き出す能力はピカ1だよ~」
『常務、褒めすぎですよ』
原田の言葉に乗っかって、藤木も嬉しそうに言う。
「君が城主として入ってくれたら、どんな傾いた城も持ち直すよ!」
『専務、どこか傾いている部署でもあるんですか?』
「ん?い、いやいや、例えばさ。君の手腕を例えたらだよ~」
原田常務があわててオレにビールを注ぐ。
しかし藤木はどうしてこれだけバカなんだろう?
墓穴掘るのは天性のもんだなあ・・・
オレはこいつの若い時を知っている。失言のオンパレードだった。
政治家にでもなればいいのに・・・
原田・藤木の両名は3部の話は一切しなかった。
野上を上げるためにオレを飛ばした2人。
オレの事業所がたった半年で表彰される。
片や野上は青息吐息。世の中皮肉なもんだ。
まあオレも鬼じゃない。給料も報酬も十分だ、文句はない。
今日はオレを労う会を素直に受けてやろう。
雅楽を出て、原田が行きつけの店に招待するという。
自分が高級クラブの馴染みだと自慢したいのだろう。
社章をロータリーに付け替える原田。バカだなと思う。
原田行きつけの高級クラブ「麗」
ここは一見さんは入店できない。会員制だ。
今日は常務の紹介で入店ということなのだ。
「今日はようこそお越しくださいました」
40半ばかな?藤あや子ばりのママが挨拶する。
なるほど、さすが高級クラブ。女の子も上品で物静かだ。
原田がオレを紹介した。オレはママに頭をさげ挨拶する。
酒があまり強くないし、遊び慣れてない、つまんない男ですと。
ママはオレに言った。
「あら?小林さま。そうは見えませんけれども?」
「ワハハ、イイ男だろ?連れて来たくなかったんだけどなあ。こいつは~」
原田が嬉しそうにオレの肩を叩く。
こういうつまらないジョークが一番カチンとくる。
オレの顔が一瞬曇ったのをママは見逃さなかった。
オレの横には27、8の愛子という子が座った。
米倉涼子に似ている。タイプじゃなくてよかった。
普通の世間話が心地よい。下手に歯の浮いたようなお世辞もない。
どうやら、本当に高級クラブのようだ。
1時間近く座っていただろうか?
オレは一応楽しいふりをして座っていた。
なにかの拍子に横の子が中座し、ママが横に来た。
「小林様、どうぞごひいきに、今度はご両名抜きでも?」
『私なんか、こんなお店には似合わないですよ』
オレは笑いながら手をふった。
「ふふっ。体形もお話もスマートですのね。
馴染みになって頂きたい方に限って逃げ上手」
向かいで、原田と藤木が娘くらいの子にしな垂れている。
その光景に微笑みながら、ママはオレに酒を注いだ。
美しい横顔、そして誰にもわからない嘲笑。
麗のママ。
怖い女だ。




