当ても無く
オレたちは待ち合わせをした。
いつもの天空のプロムナードは止めにした。
今日で3度目だし、場所も少し変更したかったのだ。
駅の反対側のオフィス街で会うことにした。
駅の反対側に行くと、先に加瀬恭子が立っていた。
くるぶしまでのパンツとヒールでよけいに背が高く見えるな。
あいかわらず目立つ。175㎝近い女はそうざらには居ない。
まてよ・・・オレは考えた。
ということは・・・
オレたちは相当背が高いカップルになる。
彼女は、自分が高いと自覚しなくていいから気楽だろう。
でも、傍から見れば、そうとう目立つだろうな・・・・
今まで、平気で歩いていたが、いざ、付き合うと思うと
そういう危機管理も必要なのだと思った。
加瀬恭子は、笑顔で駆け寄ってくる
そんな事はまだ彼女には言えない。
『おつかれ。だいじょうぶかい?』
「部長こそ、お疲れじゃないですか?」
『嬉しい会じゃなかったけどな。君が居たから楽しかったよ』
「私を必要としてくれる人がいるなんて信じられないです~」
『本人にはわからないものさ。その人の存在の大きさなんて』
「難しい~ 私あまり利口じゃないからわかんないですよ」
加瀬恭子は困った顔でオレを見つめる。
でもその目は妻とは違い、慈愛を感じる。
惚れてるから贔屓目なのかもしれないな。
それでもかまわない。ウソでもいいから愛されてると思いたい。
どこへ行こうか?とも言わずになんとなく歩く。
こっち側はオフィス街で比較的静かだ。
もう少しいけば、有名なシティホテルがある。
バーにでも行くかな?今ならまだ開いている。
『○○ホテルのバーにでも行くかい?』
「え~高級すぎますよ~ 普通の恰好だし・・・」
彼女が躊躇するのは、ホテルに行くことなのか?
バーに普通の恰好で行くことなのか?どっちだろう?
オレは、誘ってると思われるのもイヤだった。
思わず言い訳のように言った。
『ホテルのバーに行くだけだよ、部屋も取ってないし安心してよ』
「ウフフッ、わかってますよ。部長って、けっこう気遣いされるんですね」
『そりゃそうさ。君に嫌われないようにと必死なんだよ。
信じてほしい、そう思う自体、怪しいか?アハハ』
「信じるもなにも、私、彼女じゃないんですか?」
『そうなんだけど、いきなりホテルに誘ってるみたいじゃん。
正直、思いはあるけど、物事には順序もあるし』
「え!そんな事思ってくださるんですか?」
『当たり前だろう?若い女性を前にして、オレも男だよ』
「私なんか・・・ダメでしょ、胸も無いし」
『無いって言われても、見てないしわかんないよ』
笑いながら答えた時、ちょうどホテルの前に着いた。
『どうする?バーで・・・ん、1時間くらいいけるかな?』
「ん・・・なんか歩きたい気分です。ダメですか?」
『ううん、歩いて話そうか?別にここに行きたいことはない』
「じゃ、行きましょ」
『じゃ、あても無く歩くか?』
オレはそう言って左腕を出した。
「ええ!」
サッと腕を組む加瀬恭子。
このままずっと、歩きたいな。




