壮行会
オレの壮行会を松野がどうしてもやるという。
しかたなく、例のごとく休日前の月曜の夜
レストランを借り切ってやる事になった。
閉めっぽいのはイヤなので、カラオケありのかくし芸ありの
忘年会ぽい会にしてくれと、松野に頼んだ。
会には当然、加瀬恭子も来ている。
これから付き合うんだ、と思うとドキドキする。
彼女も、それとなく楽しそうにしているように見えた。
おトキが声をかけてきた。
「部長、3部、これからどうなると思います?」
まるで、未来を読み切った預言者のような顔で尋ねてきた。
『なんだい?どうなるって?どうもならないだろう?』
「あら?そうですか?私不安ですわ」
『野上が来ても急には変わらないだろう?いつも通りに仕事はできるし』
「そうですか?城主が変わると、城が傾くこともありますわよ」
『おトキさんよ、何が言いたいんだい?』
「残念なんですよね、部長が飛ばされること・・・」
『ありがとな。君にだけは言うけどさ。オレ野上が来て。
いっそのこと、3部がコケても面白いなぁと思ってんだ』
「あ~ 谷元部長がね、野上は3部を潰す。って言ってましたよ」
『でも潰れたらさあ、社員の子たちもかわいそうだしな。
できればみんな今のままで居てほしいよね』
「私も空中分解しないように祈ってます」
『頼むぞ、君らが支えてやってくれよ』
そんな話がちょうど一区切りついた所へ、加瀬恭子が通りかかった。
「あ。加瀬さん~」
「おじゃましていいんですか?」
「なんで邪魔なのよ?」
「部長と大事なお話されてそうでしたから」
「部長と私の間に大事な話なんかないわよ。
だいたいさ~ 私は部長の愛人だったんだから~」
『おトキ!!! お前何言ってんだ!』
オレは焦った。普段なら、うちの部ではお決まりの冗談で面白い。
でも加瀬恭子にはマズい。彼女はどう受け止めたんだろう?
「・・・・」
苦笑いとも、悲しみとも取れる微妙な顔の加瀬恭子が居た。
冗談とは受け止めていないみたいだ。
彼女は何も言わずに席を外そうと、少し動きかけた。
その背中に後ろから、磯田祥子が抱き着いた。
「何の重要会議なんですか?」
おトキが言った。
「私が部長の愛人だって話よ」
「あら?橋本さんは、課長の愛人でしょ~ ギャハハハ~」
「あ~ 磯田さん、今の発言、減給ね」
「げー なんでですかあ? 加瀬さん、課長の愛人になる?給料倍よ」
磯田祥子は加瀬恭子の背中にしがみついたまま聞いた。
ここまでのやり取りで、冗談だとわかったのだろう。
加瀬恭子は笑顔で返事をした。
「私10倍でも~ パス~」
「だよねえ? ギャハハハ」
松野は向こうのほうで嬉しそうにしている。
そのオヤジっぷりに3人で大笑いした。
よかった~ 磯田が来なけりゃ、変な空気になった。
この間、付き合おうと約束しただけに、このシャレはタイミング悪かった。
彼女がどう思ったのだろう?当然おトキのせいではないが
何でもない冗談に冷や汗をかいた。
でも、あの苦笑いは、真に受けたんだな。
イヤな顔をした、ということは
やっぱりオレの彼女になってくれたんだろうか?
オレって疑い深いのかなぁ・・・




