表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/100

沈黙

オレは加瀬恭子を離したくなかった。


それはただ単に身体を求めるというのではなく

彼女の存在が愛しくてしかたがなかった。


だかオレは異動する。来月にはその準備で忙殺される。

もうこうして会うこともできないかもしれない。

思いを伝えて、と思ったが、さて、その後どうなるんだ?

結局、何の進展もない恋愛ごっこが始まるだけだ。


17歳下の子と付き合ったことなどないし、考えもしなかった。

彼女に旦那がいるならダブル不倫もあり得るかもしれない。

でも独身女性と既婚者とではバランスが取れない。


あーオレなに言ってんだ? まだそこまで話もなってない。

たった1分の沈黙に思いを巡らす。 そろそろ帰る時間かな。


「部長、むこうに行かれたら、もう帰ってこないんですか?」


『そうだな。年に1回くらいはあるかもしれないけど。

         ニュータウンが軌道に乗るまでは戻らないなあ』


「じゃあ、ほんとにもうお会いできないんですね」


『あーあ~ 異動する気だったんだけどなあ・・・

     君に会えなくなるなら、断ればよかったって後悔してるよ』


「ほんとうですかぁ?」


『君にお世辞言うメリットあるのかい? オレはありのまま話してるよ』


「私、自分に自信がないじゃないですか?」


『自信もって言うんじゃないよ!』


「も~私真面目に話してるんですよ~」


「私、人に好きになってもらったことがないから

    いくら言っていただいても、信じられないんですよ~」


『かまわないさ、信じてもらえなくても。 

    でも加瀬くんの事、好きでもないのに、なんでオレは君と居るんだい?』


「それは、えーっと。ボランティアとか。かわいそうだからとか。 です」


『君はそんなにかわいそうな女なのか?』


オレの声のトーンが変わったのだろう。

彼女はハッとして表情を曇らせた。


『君をかわいそうな女だと思ったことは一度もないよ。

             オレが愛した人はかわいそうじゃないよ』


オレは彼女に対して初めて腹を立てた。


『君の身長も手も、全部に惚れた男が1人くらい居てもいいだろう』


『と言いながら、こんなオヤジで申し訳なかったけどな』


加瀬恭子は、お返しとばかりにキレ気味に呟いた。


「オヤジじゃないですよ。さっきも言ったじゃないですか?

                 私、部長だったら全然 OK ですって」


「部長が私のこと、真剣に大事に思ってくださってるのわかってますよ!」


「でも、愛されてるって、実感すればするほど辛いじゃないですか?」


「だから、私を好きになるなんて信じられないって否定してしまうんですよ」


「部長を好きになっても、どうすることもできないじゃないですか?」


『そうだよなぁ・・・既婚者のオレが君に惚れても、何にもならないよなぁ』


「でも愛されたいと思うんです。私を愛してくれる人と離れたくないんです」


『まあ、嬉しいけど、君のファンの愚痴ってことにしておいてよ!』


オレは答えが見つからず、このへんで帰ろうか?という雰囲気を出した。



加瀬恭子は返事をせずに天井を見上げた。


1分弱の沈黙だっただろうか?


恐ろしく怖い時間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ