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結婚相手の条件

「手を繋いでもらった意味なんですけどね」


『なんか心理テストなのか?』


「いえ、話せば長くなるんですけど、私の闇の歴史ですよ」


彼女は複雑な表情でオレを見つめた。


『闇?なんだそれ?アニメみたいな話なのか?』


笑いながら尋ねたオレを無視するように彼女は話始めた。


「中学に入って、すぐだったんですけど」


あまりの唐突な出だしに、オレは意味がわからなかった。

中学生の思い出話から始まるとは驚きだ。


「近所の公園で友達と遊ぶのに待ち合わせしていたんです」


そこに1人の男がやって来て声をかけたという。

彼女は意味が全然わからなかったらしい。

が、今、思い起こせばどうやらナンパだったという。


「当時、高校生くらいかしら?私には大学生くらいに見えたんですけど」


彼女は当時165㎝近くあったそうだ。高校生に見えたのかもしれない?

ナンパされて、意味がわからず受け答えができなかったのだという。

男はバカにされて、軽くあしらわれたと思ったのか。

あきらめて、最後に彼女にどこの学校なのか?聞いた。

彼女が学校名を答えた途端、ふざけんな!と言われ頭を殴られた。


「なにが起こったのか意味がわからなくて、

            泣きながら帰りました・・・」


それから、大学生くらいまで、今で言う PTSD のような状態だったという。

今は何ともないけど、やっぱり暴力には敏感に反応してしまう。

なので太田の態度は許せなかったという。


彼女は、暴力をふるう男も嫌いだったが、同時に自分も嫌いになった。

自分が普通の女子の背格好だったら、あんな目に遭うことはなかった

と思うようになった、同級生より遥かに大きい自分自身をを憎んだ。


「かわいい女の子になりたかったんですよ。でもなれなかったんです」


大学の時、やっと彼ができた。

でも付き合いながら、彼に大柄を馬鹿にされた。


「いちおうデートで、手、つないだりするじゃないですか?」


「彼に言われたんですよ。 デカい手だなぁ・・・って」


「ショックでしたね。そりゃ小さくはないですけど、彼の驚きが酷くて」


たしかに小さな手ではないが、オレからすればデカいとは思わない。

むしろ、長身な人にありがちな、長く美しい指だった。


「身長はね、見ればわかるじゃないですか?

        でも手とかあまり気にしてなかったんです」

            

「やっぱり、手も女らしくないんだと思うと・・・

      悲しいんですよね、しかたないことなんですけど」


程なくして、彼には小柄なかわいい彼女ができた。

その大きさを理由に、彼女はフラれたという。


「デカいだけが理由じゃなくて、私の性格も悪かったかもしれません

           でも自分のサイズのせいにしてしまうんですよね」


じっと手を見つめる加瀬恭子。

美しい手なのにな・・・本当にオレはそう思うのだ。

でも彼女にすれば、そのパーツ1つ1つが憎い、イヤな対象だったのだ。


「だから私、自分勝手な決め事だったんですけど・・・」


「私の手を、デカいって言わない人と結婚しようと心に決めていたんです」


「部長は、私の身長を高いって言わなかったじゃないですか?

      だから、いつか機会があれば、手も繋いでほしいと思ってました」


「部長ならデカいなんて言わないかもしれないって・・・」


「そうしたら、やっぱり私を褒めてくださって、感動しましたよ!」


「でも部長は、どうにもならない人ですもん。

       運が無いなあ、と悲しくなって泣いちゃって。バカですね~」



     

彼女のコンプレックスは身長だけではなかった。

彼女は自分の手も足も、すべてイヤだったのだ。

彼女は生まれ変わりたかったのだ。



「あ~あ。自分を好きになって、堂々と生きたいな~」


『え?』



その一言はオレが子どもの心に骨に刻んだ言葉だった。






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