謎のテスト
「部長、酔って失礼な質問していいですか?」
『どんな前置きだ?何でも聞きなよ』
彼女は、怒らないでほしいと前置きをして、妻との関係を聞いてきた。
そりゃおかしいと思うだろう。家に居たくないなんて。
この年になって街を彷徨ってるなんて、異常だと思うよな。
前回のデートでも、少し妻の話はした。それほど仲は良くないと。
予告編のようにチラチラ話の端々にオレが愚痴るから
彼女にすれば、気になったのだろう。
どうせ、異動するし、かまわないと思ってうちの内情を伝えた。
オレと妻を繋いでいるのは金だけだ。愛なんか無い。
金払って、身の回りの世話してもらってるだけ。
ただ暮らしているだけ。だから今回、急に降ってわいた異動も
単身赴任で、一人になれるから、むしろ嬉しかったんだと。
「私だったら、そんな思いは絶対させません」
彼女は呟いた。
『君の旦那になる奴が羨ましいよ』
「この世にそんな人が居たら?ですけどね」
『その愚痴が聞けなくなるのも寂しいなあ~』
オレはしんみりしないようにワザとおどけて言った。
ふいに彼女はオレに言った。
「そうだ。部長、ちょっとテストしていいですか?」
『?』
何のことだか分からずにオレは彼女を見つめた。
スっと右手を出して、こう言った。
「あの、手つないでいいですか?」
オレはためらった。こんなオヤジと手つないでキモイだろう?
かまわないんだろうか?躊躇しつつ、いいのか?と尋ねる。
うなずく彼女。指切りの感触が蘇る気がした。
まるで中学生のようにドキドキしながら軽く手を握る。
想像した通りの美しい手だった。思わず言った。
『あ~ やっぱりキレイだわ~』
「え?それが感想ですか?」
『そうさ、思った通り、美しい手だよね。
オレの手に美しさが伝わるよ』
オレを見つめる彼女の表情が崩れた。
どうした?まるで、堰を切るように涙が流れる。
なにか変な事言ったのかな?
彼女は手を離し、ハンカチで目を覆った。
一体どうした?この子は不可解な涙を流すことが多い。
「ごめんなさい、また泣いてごめんなさい」
オレはこの、手を握る というテストが何なのか?見当がつかなかった。
このテストの意味を聞きたかったが、冗談でごまかした。
『ごめん~ キモかっただろ?手、消毒しないと!』
オレは笑いながら言った。
彼女は、涙を拭きながら言った。
「もう~ 冗談言わないでくださいよ~
そんなこと、全然思ってませんよ!」
『いや、手つないだ瞬間に泣くからさ~ 気持ち悪かったんだと』
「手を繋いでもらったのには、意味があるんです」
オレは何を試されたんだ?




