情報収集
オレたちはカフェを出て、イタ飯屋へ向かった。
ここはカジュアルな雰囲気の店。
値段も安く、仕事帰りのサラリーマンやOLで、混んでいた。
店の料理は基本2人前。適当にパスタやピザを頼んだ。
それを加瀬恭子がプレートにシェアしてくれる。
この前もそうだったが、この子のたおやかさは際立つ。
改めて気づいたが、手が美しいのには驚いた。
『加瀬くんさ、手キレイだよね。モデルできるんじゃないか?』
「え~!!!」
けっこうな大声に、周りがこっちを見る。
『あ、バカっ 驚かすなよ!』
「ごめんなさい、だって~」
笑いながらピザを皿に滑らせる。
「私がモデルできるとすれば、進撃の巨人くらいですよ」
『それマンガだろ?題名しかわかんない
こっちはじじいなんだし。わかる例えにしてよ』
「私、部長に友達みたいに接してますよね?すいません~」
彼氏じゃないのね・・・と思いつつ笑顔で見つめる。
友達って言ってもらえるだけでもありがたいかな。
どうしてこれだけ話が弾むんだろう?
店の喧噪の中で、オレたちは恋人のように語らい、笑った。
話は途切れることはない。彼女が本当に楽しそうにしている。
太田の時よりもオレと一緒がいいのかな?
尋ねたかったがガマンした。さすがにそこまでは聞けない。
楽しい食事はアッという間だ。客の出入りも激しい。
オレたちはゆっくりしたかったが、しかたない。店を出た。
「さ、行きましょうか?」
『どこへ?』
「え?前回と同じ、あのバーへ行くんでしょ?」
『構わないのかい? 店も時間もこの前と同じで』
「もちろんですよ。前回と同じデートなんでしょ?」
そう言って微笑む姿がかわいい。
この前のバーに着く。時間が少し早い、店はオレたちだけだ。
前回と同じ席に着く。服装が違うので新鮮に感じた。
そこでの話は彼女の結婚についてだった。
太田と上手くいかなかったのは、正直うれしいが
やはり彼女の幸せを祈っているオレもいる。
彼女の相談に乗れるのも嬉しかった。
「一度、婚活パーティへ行こうかなと思うんですけど・・・」
『おお、いいじゃん、オレもそういうの憧れたんだよね』
「え~?部長がですかぁ? お若い時ですか?」
『そうさ。結婚失敗したからさ。 よけいにやり直したいと思うんだよね』
「も~ さほど飲んでないのに止めてくださいよ~」
彼女は笑って一蹴したが、オレは本音だった。
きっと、彼女とのデートはこれが最後だろう?
酔ったふりをして、彼女に本当に惚れていると伝えたかった。
でもそんな事をして何になる? 迷惑なだけじゃないか?
いつも振り子のようにオレは揺れる。これこそマジ惚れの証拠だ。
話の内容は、加瀬恭子の婚活の話。そこからどういう流れになったのか?
どうして太田がダメだったのか?と言う話題になった。
オレはそれに興味があった。彼女が許せない男がどんな男なのか?
知っておきたかった。当然、オレがそうならないために。
彼女に好かれたい一心での情報収集。
何にもならない情報収集。




