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願い


なにげに時計を見た。そろそろ夕食だ。 


どうだろう?誘っていいんだろうか?

ダメなはずないよな?会いたいって言ってきたんだし・・・


『加瀬くん、もうこんな時間だ。話は結局、異動の確認かい?』


「あ、ごめんなさい、ええ、部長の異動のうわさを確認したかったんです。

         それと駅前においでだと聞いて、直接お会いしたかったし」


『オレも会いたかったよ。指切りからずーっとね』


「え~~ ほんとですか? なんだ~ 私こそ、ずーっと待ってたんですよ」


まるで付き合い初めのカップルのような会話が嬉しかった。

加瀬恭子の幸せそうな顔。この子がオレの彼女だったらなあ・・・


『なあ。加瀬くん、オレ、これから1人で食事なんだけど

        あの、君は今日・・・もう帰るかい?』


「あら?外で食事されるんですか?私てっきりお帰りになると・・・」

    

「奥様お出かけなんですか?」


『いや、たぶん家に居るけど。オレたちは別行動なのさ』


「私は部長とご一緒できるの、嬉しいけど、本当にいいんですか?」


『ああ、別に飯はどうでもいいのさ。食べなくてもなんともないの。

         ほら。この前言ったじゃん?オレは ATM なんだって』


「じゃあまた、前回と同じ感じで、夕食会ですか?』


デートが決まった。オレは嬉しくてしかたがない。

どこへ行くか?2人で相談の末、しゃぶしゃぶは止めて

今日はカジュアルなイタ飯屋に行こうとなった。


喫茶店を出る。歩く速さが心地よい。やはり歩幅が合うよなあ。

この前のデートを思い出す。あんな昔話までしたっけ。

でも。オレは嫌われてなかったんだなあ。

それだけでも嬉しい。 妻の愛を実感できないオレは加瀬恭子に

好感を持たれているという事実が嬉しかった。


「部長。本当にお帰りにならなくていいんですか?」


『ああ、オレけっこう休みの日、外で食べてるんだよ』


「奥様とお食事されないんですか?

    あ、なんかすいません、いろいろ聞いちゃって」


『謝らなくていいよ。不思議かもしれないよな。

     今もう子供も手離れただろ?2人だしね。

         お互い好きに気楽に暮らすことにしたのさ』


 『オレはどうでもいいんだけど、でも加瀬くん

              オレが誘って迷惑じゃないか?』


「いえ。本当に私誘っていただいて嬉しいんです!

        ただ。相手していただいて、申し訳ないと・・・」


『おいおい、前回と同じような話だな?

     君と一緒に居たいと思ったら、それは申し訳ないことなのか?』


「いえ、そういうわけじゃ。何と言えばいいんでしょうか?

  あの。部長が私の相手をしてくださるのが、なんでだろう?と」


『そこで言うんだろ?私はデカくて、美人じゃないし』


「そうそう!そうです!」


『それは君が勝手に決めた、自分の評価だろ?

   オレは君を素敵だって言ったじゃん。嫌なら誘わないし』


『あ!オレの意見なんかよりさ~、まず、太田が惚れてたじゃん?』


「あ~ 止めてくださいよ~ 好きじゃないんですから~」


本当に嫌そうにしている。 ほんとに付き合ってなかったんだな。

でも、どうして、これだけ自分をダメだと言い続けるんだろう?


確かに背は高いが、これくらいの身長の子は珍しいことはない。

化粧も薄く地味な印象だが、美人だ。女優の青木倫子に似ている。


いつも自虐ネタで人を笑わせて、明るく振舞ってるけど

こうして2人だけになると、ネガティブな部分を見せるようになった。

オレの前では、素直に思うままなのかもしれない。

それなら尚更、オレがなんとかしたいな。


自信をもって生きてほしい。


オレの惚れた女なんだから。


心からの願いだった。





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