あとの祭り
よわったなぁ・・・
『あのさ、加瀬くん、怒ってるよ ね?』
「部長が変なこと言うからですよ。どうしてそんな嫌味言うんですか?」
『嫌味って、オレ噂で聞いてさ・・・君に彼ができたって』
オレはしかたなく、おトキから話を聞いた事。
磯田祥子があの日、囁いていたことを正直に言った。
加瀬恭子は泣き止んだ目を輝かせて笑いだした。
「部長でも噂に惑わされるんですね?課長に言いつけますよ~」
笑うとかわいいなあ。いつも思う。
オレはこの笑顔を見てると、どんなことでもガマンできそうだ。
「別に隠すことじゃないんです、部長にお話ししても
かまわないんですけど。聞いてくださいますか?」
聞きたいんですけどっ。という感じだった。
彼女の話はこうだ。
太田とは別に普通に何度も話はしていた。
たまたま、いつだったか?磯田祥子と2人で仕事帰りに
太田と、もう1人の男性社員と出会って
その時、お茶に誘われて、4人でカフェへ。
世間話して特に何もなく、終わった。
それから少し日にちが空いて、太田が加瀬だけをお茶に誘った。
太田は恋愛対象ではなかった。年下だし、意識もしてなかった。
でもまあお茶くらいならいいか?と。これも世間話で終わった。
そのあと、1回食事を。と誘われ、仕事帰りにファミレスへ行った。
彼女としては、この時点で、付き合いはないな。と予感したのだが・・・
実はこの食事を磯田祥子が知り、付き合ってる?と尋ねた。
否定はしたが、照れ隠しと取られた。
そのあと1回お茶したのだが、その時、イヤな事があって。ダメだと思った。
その場で、彼に、正式にお付き合いを申し込まれたが、できません。と伝えた。
その後、フラれた彼は退職した。
「1対1では、1回お茶して、ごはん1回、お茶1回ですね。
計3回ですよ。なのに彼だなんて、何もないですよ」
『そうなんだ!』
『君も彼氏募集中なんだから、てっきり上手く行ってると思ってたから。
いや、早とちりで失礼したよ。ごめんね』
「橋本さんに話されたら、信じちゃうかもしれないですねえ」
加瀬恭子に彼氏は居なかった。
オレの勝手な言い方で表現すれば、誰にも取られなかったのだ。
「部長~?なんだかうれしそうですね?」
加瀬恭子はいたずらっ子のような顔で言った。
『なに言ってんだい?嬉しいなんて。残念だよ』
「残念じゃないですよ。私お付き合いしなくて
よかったと思ってるんです。太田さんには悪いけど」
『そんなにダメな男だったのか? 松野は褒めてたけどなあ・・・』
「課長は仕事しか見てないからですよ。オフは真逆の人も居ますよ。
お茶したり食事すれば大体、人柄もわかるじゃないですか」
『それはそうだけど、オレは付き合ってると思ったよ』
「私だって選ぶ権利はありますよ」
『そりゃ、そうだ。イヤな奴と無理に付き合う必要はないからな』
「そうですよ。女はね、特に嫌悪感抱くと、ダメなんですよね。
ガマンできないですから、無いわ~ってなっちゃいます」
『よかったよ、オレは嫌われてないみたいだし』
「当たり前でしょ~ こうして一緒に居るんですから!」
彼女の笑いは屈託なくていいなあ。
つくづく思う。
ああ・・・でも異動すれば、この笑顔見れないんだよなあ。
勇み足だったかなあ・・・
異動したくないなあ。




