表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/100

睨むなよ

仕事以外では、ラフな格好が多い。

若いころからアメカジが好きだった。


チノパンにスウェット。MA-1。スニーカー。いつものスタイル。

今日、加瀬恭子に会うなんて思ってもいなかったからなぁ。

こんな格好見たら、ドン引きだろうなぁ・・・


いろんなことを考えながら駅へ向かう。

○○屋はレンタルDVDの店だ。店先の TV の PV を眺める。

《なんだこりゃ?》歌手名も歌もわからない、

そんな異次元の映像を、2分ほど見ていただろうか?


「部長っ。○○好きなんですか?」


加瀬恭子が声をかけた。


『お。○○ってなんだ?』


「今 PV 見てるじゃないですか~?」


『○○って、この歌のことか?』


「歌手の名前ですよ~」


ケラケラと笑う。

ジーンズにスニーカー。長めのコートっぽいジャケット。

偶然だが、彼女のスタイルもアメカジっぽい。

メガネもメタルのものから黒縁に変わっている。

髪はショートのままだが、ワックスかなにかで

わざとラフに仕上げてる。


『加瀬くん、君はオフだとモデルっぽいな?』


「も~いきなりですか~ 部長も素敵ですよ」


『ホームレスのおじさんぽくないか?』


「ホームレスのおじさんはロレックス着けないでしょ」


細かい所まで見てるもんだ。

ということは、この恰好でも彼女的にはOKなのかな?


とりあえず、喫茶店で話そうという事になった。

普通のカフェに入る。若い子が多いので少し恥ずかしい。


オレは何の話があるのか?早く聞き出したかった。

のろけ話を聞くのもイヤだったし、私服も見たからもういい。

若い女子が多い店内だ。早く話を聞いて帰ろう。


『どうしたんだい?せっかくの休日に?』


「昨日、朝礼でのお話・・・」


『ああ、ニュータウンの件かい?』


「異動されるんですね?」


『噂に惑わされるなと言ったろ?』


「でも、川本係長もどうしよう?って。

          橋本さんも、辞めようかなって」


あいつら・・・ 

ここまでみんなに知られてるのならしかたない。

彼女に、絶対に他言はしない、すれば解雇するぞ!

と冗談まじりに脅して、大まかに異動の話をした。


「やっぱり、異動されるんですね・・・」


彼女は天井を見上げた。あの日と同じ仕草だ。

涙がこぼれないように上を向くのが癖みたいだ。


「私、めったに泣かないんです。涙は見せないんです。

       でも部長の前では、何度もすいません」


彼女は目に一杯涙をため、メガネを外した。

涙が零れ落ちる。やはり、その瞳は大きく美しかった。


『おいおい、なんで君まで泣くんだい?』


「だって・・・部長が居なくなったら、私、独りになります」


『独り?そんなことないだろ?』


オレは一瞬、イラっとした。彼がいるだろ?


「私を理解して守ってくださるのは部長だけだと」


そこまで聞いて、思わず言ってしまった。


『おいおい~ 彼氏がいるくせに何言ってんだよ?!』


加瀬恭子は鼻と口をハンカチで押さえながらキッと睨み返した。

ちょうどマスクをしているように見える。


「彼って何ですか?メールにもありましたけど?」


こんなキツイ口調は初めてだ。上司に対してなんだよ・・・

オレは少し怯みながら、なだめるように尋ねた。


『おいおい、何キレてんだよ?加瀬くん、彼氏いるじゃん?

           独りなんて言ったら彼に悪いだろ?』


「何をおっしゃってるのか?意味わかんないんですけど。

       彼が居たらとっくに辞めて、結婚してますけど?」



え? 太田はどうなったんだよ?

おトキも磯田も言ってたじゃん?

しかもなんで、ブチ切れなんだ?


「部長、何を根拠にお話されてるんですか?

     朝礼で、噂に惑わされるなとおっしゃいましたよね?」


おっしゃいましたよね?って。



おっしゃいましたけど・・・・



すげえ睨んでるし・・・







     

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ