ひねくれ者
悪事千里を走る。ということわざがある。
あの雅楽での話から1か月。
オレを追い出して営業1部の野上課長を据えるという話。
誰がリークしたのか?けっこう噂になっているみたいだ。
今はスマホもあるし、拡散させるなら1日でも足りるだろう。
ただ、当事者であるオレの居る3部では、誰も口にしない。
でもオフィスは、いつもと違うように感じる。
みんなオレの顔色を見てるようだ。
内線でオレ宛の電話だと全員、そば耳を立てている。
営業には支障をきたすことはないが
社内では噂だし、オレから一言言うべきだろう。
もちろん辞令が出ていないのだから、否定をするが。
オレは月曜の朝礼で話す事に決めた。
翌日が休みのほうがいいと思ったからだ。
『今、○○ニュータウンの件で、おかしな噂が流れてます。
まず、言っておく。まず根も葉もない噂に流されない。
いいか?・・・・』
ん? みんなの様子がおかしい。オレは黙ってしまった。
何故?みんなオレを見ない? オレの右の松野を見ている。
なんだ?
横を見ると松野が目に涙をためて、今にも泣きだしそうだ。
お前はバカか? お前のその姿で確定なんだよ。
みんな悲壮な顔で松野を見ている。
オレは話をつづけた。
『いいですか?うわさには惑わされないこと。
お客さんの前でデマを聞いてうろたえるか?
私たちが常に冷静に情勢を見極め・・・』
オレは懸命に話をしたが、松野課長が泣いた時点で
異動がバレてしまったようだ。
朝礼が終わる。営業が出ていく後ろ姿はいつもと同じだ。
経理もいつも通り仕事を始めた。加瀬恭子はどうだろう?
気にはなったが、あえて見なかった。
だって、ケロっとした顔で居られたら、オレがよけいに凹む。
いや、それくらいの態度のほうが、オレも未練なく出ていけるよな。
松野が言う。
「すいませんでした・・・」
いいよ、と一言だけ言ってオレは知らん顔をした。
もうこの件は話しないほうがいいな。
みんなオレが飛ばされる事が、確定だと読んでる。
きっと後任が野上だ、ということもわかってるのかもな。
みんな、オレに気を遣ってるだけじゃないか?
みんな知ってるんだろう?
早く終業時間が来てほしかった。
みんなオレの異動どう思ってるんだろう?
案外、喜んだりして・・・
なんだかオレ、ひねくれ者になりそうだ。




