ノストラダムスの大予言
リーチとの重要会議から2か月ほど経った。
案の定、○○県でのニュータウン開発が社内で話題になり
そこから大幅な人事異動があると噂された。
オレは自分が飛ばされるのでは?と心配だった。
でもいくら考えた所でどうしようもない。
単身赴任すれば夢の生活が待っている。
気楽に待って居よう、それくらいの気持ちだった。
あ、でも、加瀬恭子に会えない。でももういい。
あの子にはちゃんと彼氏いるんだし。
そう思っていた矢先。営業の太田耕平が退職した。
営業の退職は珍しいことではない。ひどい奴になると
初出勤。翌日から無断欠席、音沙汰無というのもある。
営業の子の出入りは一々気にはならない。
でも太田耕平は別だ。加瀬恭子の彼氏だし。
オレは思った。これ、人事異動を見越しての退職じゃないか?
営業の何人かが異動になると、噂になっているのかもしれない。
○○県に行けば、加瀬恭子と離れる。そうなる前に辞める。
あり得るな。やっぱり別れてないんだな?
当の加瀬恭子は普段と変わらない。
オレは確かめたかったが、付き合いが続いていたら
ショックをを受けることになる。詮索はやめておこう。
「部長、○○ニュータウンの件。どう思います?」
『どうって?』
「あれだけの戸数ですからね、営業の異動もありますかね?」
『根こそぎ持っていくなんてことはないよ。あるとすれば・・・
向こうで核になる人物の異動かな?駒は向こうにも居るんだし』
「係長、課長クラスですかね」
『わからんぞ。オレが飛ばされるかもしれない』
「なに言ってんですか?部長が飛ばされるわけないでしょ。
第一、落ちる理由がないじゃないですか?」
松野は笑っているが、オレは心の中で彼に声をかけた。
野上の野郎が来ても、ここをお前が守ってくれ。頼むぞ。
ある日、人事の溝口から連絡があった。
藤木専務からの酒の誘いだそうだ。
場所は〇〇ホテルの日本料理店。雅洛。
うちの役員御用達の店だ。
ここに呼ばれる事=重要会議を意味する。
来たか。
オレは営業4部に電話を入れた。
『リーチ、今日からお前、呼び名変えるからな』
「ん?なんの話だい?」
『お前、今日からノストラダムスって呼ぶから』
オレは笑って言った。預言者というつもりだった。
「おい!本当に話出たのか?」
『ああ。藤木からさ、来週の金曜日、雅洛だと』
「雅楽だとぉ? あの野郎、オレも行こうかな」
『おいおい、止めろよ、今度は島流しじゃすまないぞ』
リーチは5年前、理不尽な人事で専務に嚙みついた男だ。
雅楽の座敷で、専務の胸ぐらを掴み、役員全員を震え上がらせた。
仕事ができるキレ者だから生き残れたが、次なにかあれば
解雇、プラス傷害罪など、いくらでも手段はとれるだろう。
「おい、言いなりになるんじゃないぞ。抗うべきだ」
『オレはお前ほど度胸もないし、とにかく話聞いてくるよ』
リーチは怒り心頭だったが、オレは冷静だった。
単身赴任の夢がオレの承諾を後押ししていた。
「とにかく、何でもかんでもハイハイじゃダメだろ?
いいか?貧乏くじ引くのはお前なんだぜ?」
『ノストラダムスの大予言が外れることを祈るよ』
『じゃあな。また結果メールするから』
そう言いつつ、電話を切ったオレは
この話を受けるつもりだった。




