表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/100

夢の単身赴任

家の鍵を開ける。


リーチはまだ飲んでるのかな?

オレは精神的にまいったのか?飲めなかった。

あのまま座っていたら、悪酔いしただろうなぁ。


暗く静かな玄関。電気は点けない。

我が家では、人が居ない場所は必ず消灯がルールだ。

会話もないのに同じリビングで過ごすのも、

冷暖房、照明の節約のためだ。


シャワーを浴び、リビングに行く。


「おかえり」


感情の無い声。目はTVの韓ドラに、くぎ付けのままだ。

オレも反対側に座ってPCを立ち上げる。

メール確認をしながら、向かい側に座る妻に話かけた。


『あのさ、まだ噂なんだけどよ。オレ動くかもしれない』


「異動なの?」


『○○県、今営業所があるんだけど、

    支店になるかもしれないんだ。そこかもしれない』


「げ~ 田舎じゃん、私行かないからね」


『ああ、いいさ、もしそうなれば単身するよ』


「単身ってさ。お金かかるの?お給料はどうなんのよ?

              お金かかることだったら止めてよ」


『待遇は悪くならない。住まいもタダだし、給料もそのままだ。

               向こうで業績上げればバックも大きい』


「それならいいけど。ねえ?降格でもいいから、もう少し上がらないかしら?」


『昇給しろってか?』


「1500あればいいわねえ」


『年収1千万、そうは居ないぞ』


「勝野さん、もっとあるじゃん」


『バカ。あそこは開業医だろ? 普通は5、600万あれば御の字さ。

               50代 平均年収 ってググって見ろよ』


これだけ会話していて、オレたちは顔を見ない。

キーを叩く音がする。検索してるみたいだ。


「え~? これ年収?400とか、500とか、死んじゃうわ」


『そうか・・・ でもそれが世の中だ』


今日の会話はこれで終わった。 


死んじゃうのなら、死ねよクソ野郎。

口を開く毎に、金、金、金。

感謝しろとは言わないが、常に足りない、もっともっと。


マリー・アントワネットは、民衆が貧困で苦しんでいた時

「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったそうだ。

お前も似たようなもんだ。どれだけ世間知らずなんだ?


年収500万の世帯は普通だ。

オレはそんな家庭のお客様を、相手にしてる仕事だ。

それさえもわからないのか?お前も働いていたくせに。

バブルのまま、世の中が止まってるのか?


バカ女め・・・・


2年目になってオレは売れだした。小林は化けたと、注目を浴びた。

その頃、妻は美人受付で有名だった。みんなにチヤホヤされてた。


当時、オレの友人が、妻の女友達と付き合っていた。

その関係から妻を紹介してもらった。

急に売れ出した若手営業マンと美人受付の出会い。

オレは容姿に惹かれた。外見だけに。


おれは美人のお前が自慢だった。

結婚して、絶対に苦労させてはいけない。

いつまでもお姫様で居させてやりたいと思った。

26年間、お前の機嫌取りをしてきた。


その暮らしの中で金銭感覚がマヒしたのか。

オレがこいつを馬鹿にしたのかもしれないな。



でも異動すれば、離れて暮らせるんだ。


家に金さえ入っていればオレは家に居なくていい。


お前の文句を聴かなくていいんだ。

あのため息を聞かずに済むんだ。

顔を見ずに済むんだ。



オレは単身赴任を夢に描いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ