確定
いつまでもリーチと話をさせるのはイヤだ。
オレは頃合いを見て、加瀬恭子に言った。
『あ、ありがとね。もう戻って。こいつと話するとバカになるから』
「おいおい、それはないぜ~ ねえ加瀬さん?彼氏はいるの?」
おい!! オレが聞きたい確信をいきなり突くんじゃないよ。
そう思いつつ、オレは彼女の反応を見た。
「いえ、・・・居ません」
いつもなら冗談で返す彼女だが、谷元のキャラに押されたのか
しどろもどろで、オレのほうを見て助け舟を求めている。
いつも通り返せないのは、彼ができたからだろう?
「部長はさぁ 君みたいなの好きなのよ、長身で清楚なのがさ~」
うろたえてもヤバい。オレは冷静を装い。聞き流していた。
その時。
「あら~ 珍しい、お久しぶりですね、所長」
加瀬恭子の後ろから声をかけたのは、橋本登喜子だった。
「お~ おトキ~」
「私の大事な妹、口説くの止めてもらえますぅ?」
「ワハハ~ 何言ってんだい?妹じゃなく、娘だろうが?」
「あいかわらずね。谷さん!キャラ作りが大変だわ。
T大出の方ってみんなそうなんですか?」
「な、何言ってんだ、お前、急に・・・」
その大学の名を聞いてみんなが驚く。
ふいを突かれてリーチはしどろもどろ。おトキの勝ちだ。
オレはこの隙に、加瀬恭子に逃げるように促した。
そそくさと逃げる加瀬恭子。
自席に戻った彼女に、向かいの磯田祥子が言った。
「加瀬さん、太田さん居なくてよかったねえ~」
「なにそれ?そんなの関係ないし~」
人間の能力というのはすごいものだ。
普段どうでもいい事は聞こえないが、こういう時の聴力は増す。
たしかに聞こえた。太田さん・・・
やっぱり付き合ってるんだ。
リーチとおトキが久々の再開を喜んでいた。
オレは2人の会話など、どうでもよかった。
磯田も知ってるんだ・・・経理課全員公認かよ。
そのうち松野が戻ってきた。
「お~松~ 生きてたのか~」
「谷さんじゃないっすか~~~~」
そういえば、松野はリーチの子分だったなあ。
「おい、背が伸びたじゃないか?今140センチくらいか?」
「谷さん~ひどいっすよ~ 今145ですよ」
いつものコントが始まる。
オフィスは大爆笑だが、オレは笑えなかった。
やっぱり付き合ってるんだ・・・・
おトキも、松野が戻ったのを見て、これを潮に席に戻る。
終業の時間が近い。リーチは時計を見て、サッと席を立った。
こういう所はバカではない。真顔に戻り言った。
「さ、行くかな?また、正式に決まったら連絡するよ。じゃあな」
短い時間だったが、戦友が帰っていく。
しかし、リーチの奴め、加瀬恭子と話しやがって。
嫉妬じゃないけど、オレはあんな風に話できない。
奴なら、サラっと口説いてアタック平気でするんだろうなあ。
でもリーチのおかげで、わかった。
やっぱり付き合ってるんだな。
確定だ。




