仕事
オレは大手住宅メーカーに勤めている。
バブルの時は苦しんだが、なんとか持ち直した。
今はリフォームで業績を伸ばし、仕事は順調。
ちなみにオレは管理職。年収も十分なほど貰ってる。
定年まで、悪いことしなけりゃ無事過ごせるな。
バブルの時に手に入れた株の運用で貯えもある。
もちろん、妻が知るはずもない埋蔵金だ。
何の文句もないだろう。
よく言う勝ち組の部類に入るオレだ。
「お前はいいよな。背も高いし、イケメンだし、金もあるし」
同僚は口を揃えて言う。
『そうでもないさ、いろいろあるんだこっちも』
いろいろあるんだ。
いや、本当は何もないさ。
オレたち夫婦の間には何もない。
よく言われる言葉。
『金で買えないものはない』
そりゃ、大概の物は買える。物はね。
でも、心は買えない。
うん、心を売る人もいるけど
身も心も売る人はいない。
金があってもどうにもならない事もある。
妻との関係がそうだ。2人の溝は金ではどうにもならない。
相手の愛情がゼロとなったと感じた時点で
愛する女は同居する人となった。
これでうちの経済状況が悪化してたら離婚だろうな。
妻はうちに餌がたっぷりあるから、この巣から飛び立たないだけ。
掃除、洗濯、朝晩の食事。
いつも身の回りのお世話をしていただきありがとうございます。
今月も、あなたのために働きます。
贅沢はできてないかもしれないけど、ずっと専業主婦してるよね。
ピアノにスポーツジム、たまにエステとプチ旅行。
満足していただいてますか?
これで亭主として、及第点はもらえてますか?
昭和の男は、惚れた女のためにがんばった。
オレもいちおうがんばったよ。
結婚して26年。お前のために。
「はあ?当たり前でしょ?」
声が聞こえた気がした。
そうだ、当たり前だ。
仕事だもんな。
仕事。