仕事にならない
あれから1か月。
加瀬恭子とは何もない。日常のオフィスをながめる。
なんだよ・・・いい雰囲気だったのに。あれから何もない。
もちろん会えば普通に楽しく話はするけど、次の約束もないし。
あの指切り・・・なんだったんだよ。
でも、よく考えたら、酒飲んで、いい気分になって
そんでもって、オレは君のファンなんだ~って。
それだけの事だもんな。オレが勝手に舞い上がって
彼女はなんとも思ってない。
自分勝手な感情だが、オレは振られた気分だった。
そんなある日。
橋本登喜子と話をしていて・・・
「部長、知ってます?」
『なんだ?急に』
「ほら、営業の、太田耕平、いるでしょ?」
『ああ、2部から来た子だろ?それがどうした?』
「加瀬さんの事、好きとかで、アタックしたの、知ってます?」
「噂ですけど。告白というか、そうい・・・」
『えーーーーーーー!!!』
思わず大声が出てしまった。
オレはあれから、何もないので、イライラしてる。
そこへ来て、彼女に告った奴がいるなんて!
ショックと驚きで声が出てしまった。
ヤバい。オレが特別の感情を持っていることがバレないか?
と心配したが、おトキは、オレの驚きを
《まさか、あの加瀬くんが狙われるとはねえ?》
という風に解釈してくれたのは幸いだった。
「まさかでしょ?意外ですよねえ~」
『うん、マジで驚いたわ~ ワハハ 笑ったら失礼か?』
オレはわざと大げさに笑い、自分の感情を押し殺した。
その驚き様に、さもありなん。と、おトキは言葉を続ける。
「まあ、恋愛は自由ですけどね、あの子、33でしたっけ?
そろそろ真剣に相手欲しいころでしょ?。
あ~どうしましょ?できる子なのに。
西田さんみたいに、寿退社になったら・・・」
『おいおい、おトキさんの読みは当たるから止めてくれよ~』
「いえ。老婆心ながら、部長のお耳に入れておこうと、ごめんなさいね」
『おい、このこと、知ってるのはオレだけか?』
「いいえ、残念ながら」
橋本は笑いながら席を外した。
そうだったのか?いつ頃からなのだろう?
たしか、あの太田が異動してきたのは・・・
あの夜から少ししてだった。
ここへ来て1か月近いんだ。
一目ぼれだったら1日もあれば
ラブレターくらい出せるよな。
もう付き合ってるのかな?
いや、もう男女の関係になってるかもしれない。
彼女は結婚したいんだもんな。
太田って、どんな顔だっけ? 30か、3つ下だな。
オレはどうでもよかった営業の子を必死で調べる。
異動して一か月だ。それとなく松野に人物評も聞いてみた。
「太田ですか?。常識もある、イイ男です。
向こうでは結果でてないですけど、お客ウケもいいし
きっかけ掴めば、将来は化けるかもしれないですね」
イイ男なのか・・・
ダメだろ。
こいつ、辞めればいいのに・・・
なんか災難に遭えよ・・・
付き合ってんのかな?
仕事にならない・・・