指きりげんまん
『お断りします!』
オレはわざと大げさに言った。
「ほらね~ やっぱり来世も結婚できない~」
わざとおどけて言う顔は、泣いているようだった。
『話は最後まで聞いてくれ』
「は。い・・・」
『ねえ?なんで?背が低くなって、美人になるの?
来世で加瀬恭子が探せないじゃないか?
今のままでオレの前に現れてくれよ』
「あ~ なんか幸せです。そう言ってもらえただけで」
『ほんとさ。もう酔った勢いで言うけどさ。
君は、部下だけど、かわいい素敵な女性。
結婚早まったなあって思う。本音だよ~』
オレは彼女に思いを打ち明けて、撃沈するのが怖かった。
それこそ、休み明けからオフィスで、顔を合わせることができなくなる。
あくまでも、君の大ファンだ。くらいの感じでの告白だった。
『オレの大好きな加瀬恭子に彼氏ができて。結婚して。
それが見たいからがんばってよ!』
「部長が結婚してくれないのが残念ですけど、がんばりますよ!」
「あ、でも、ん~? そうですね。50超えて、一人だったら
もらってくださいますか?」
『 50超えてか?ざっと、20年後か?オレはおじいさんだぞ』
「構いません、押しかけます!」
『じゃあ、介護お願いするよ。その頃、オレは離婚してるから』
オレは笑いながら言ったが、本当にそうなるだろう、と思っている。
『さ。そろそろ帰ろうか?遅くなった。ごめんね』
そう言ってオレは立ち上がった。
これ以上時間が経てば、オレは彼女を誘ってしまう。
「また、連れてってくださいますよね?」
『当たり前だろ?ほんとはずーっと一緒に居たいくらいなんだから』
「私もですよ~」
そう言いながら2人は寄り添うことなく、微妙な距離で歩く。
その距離のまま、駅に着いた。オレは地下鉄、彼女は在来線だ。
『今日はほんと!楽しかったよ!ありがとね!』
「私こそ。こんなデートできるなんて。
また、連れてってくださいね!約束ですよ!」
『ああ、行こうな!約束しよう』
「じゃあ、指切りげんまん」
そう言って彼女は小指を出した。
長身にありがちな美しく長い指。
「指切りげんまん、嘘ついたら カルティエとティファニー買~う!」
『そりゃ、松野の仕事だ。オレはしゃぶしゃぶだ!』
「えへへ、私、しゃぶしゃぶがいいです!
じゃあ、ほんと、ありがとうございました」
彼女はバッグからストールを出し首に巻いた。
どうやら酔いも覚めてきたかな?
何度も振り向きながら、手を振る。長身なので目立つなあ。
オレはキャメルのコートが改札に消えるまで見送った。
指切りげんまんか・・・
初めて触れ合ったよ。