来世で私を見つけてね
『おいおい、どうしたんだい?泣き上戸だったのか?』
「ごめんなさい、なんか感動して。
私も、営業の厳しさはわかってますから」
弱ったな。かっこいい話のつもりだったんだけど。
オレは彼女が泣き止むのを待った。
『とにかくさ、明日は今日より素晴らしい。
体験者は語る!加瀬くんの未来も明るいってことだ!』
「励ましてくださるために、そんな話をしてくださったんですね?」
メガネを外して涙を拭きながら彼女は言った。
レンズを通さない瞳は、思ったより大きく美しかった。
『励ましなんかじゃないさ。炎上確定の自慢話だよ』
オレは笑いながら言った。
「でも。私、23歳の部長に会いたかったな。ここで」
『会ったらどうする?しゃぶしゃぶ、おごってくれるのか?』
「も~ 違いますよ~ 会って、励ますんです!
死にたいなんて思わないように。私が支えるんです!」
『え?』
「お返しですよ、タイムマシンに乗って恩返しに行きたい」
『おいおい、話が見えてこない。そうとう酔ってるな?』
彼女は泣き止んではいたが、赤くなった目でこっちを見て言った。
『あ~ 気づいてらっしゃらないんですね?
ん~ 私この事は黙っておこうと思ったんですけど』
恥ずかしそうに笑いながら彼女は言った。
「はしごですよ。ハ シ ゴ !」
『はしご?何の話だ?』
「やっぱり~ 覚えてらっしゃらないんですね?
初めて部長にお会いした時」
『あ~ 思い出した!ハシゴ要ります だろ?』
「そう!あの時、私悲しかったんです。
この会社でも、女扱いしてもらえないと」
『前の会社でイジメとかあったのか?』
「いえ、イジメじゃないんですけどね。
ほかの女子はみんな、かわいいじゃないですか?
私はデカいから、男子扱いなので」
『そんな事ないさ。オレの傍ではかわいい女子だって』
「部長だけですよ、女子なんて言ってくださるの。
私それだけで、すっごい救われて、幸せなんです!」
「結婚は無理でも。せめて女子扱いされたいですからね~」
『またそれかよ?できるって。何度も言わせるなよ』
「でも。誰も私を好きになってくれないですもん~」
『オレ、マジで言うけどさ。あと10年若くて独身だったら
今、ここでお付き合い申し込んでるぞ!』
酔った勢いで本音を吐いてしまった・・・・・
彼女はオレのほうを向いて、メガネをちゃんとかけ直した。
「え~ほんとですか」
『ああ、ほんとさ。酔ってるけど正気だよ。
今、独身だったら、アタックするさ!』
彼女は眼を輝かせて、少しオレににじり寄りながら言った。
「じゃあ、じゃあ!」
「私、生まれ変わって、背も低くなって、美人になりますから・・・」
「来世で私を見つけてね」